2012 Fiscal Year Annual Research Report
東アジア仏教美術における図像と儀礼空間-千手観音と薬師如来を中心として-
Project/Area Number |
10J40214
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
濱田 瑞美 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(RPD)
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Keywords | 図像研究 / 仏教儀礼 / 千手観音 / 薬師如来 / 石窟美術 / 薬師経変相図 |
Research Abstract |
本研究の目的は、東アジアにおける仏教図像を、儀礼空間のなかで解き明かしていくことにある。 最終年度である本年度の実地調査は、インドのデリー国立博物館所蔵のスタイン将来の敦煌画のうち、千手観音変相図6件および薬師経変相図1件を対象に行い、図像データを収集した。また、中国四川省の夾江千仏岩の千手観音寵および四川博物院所蔵の仏教彫刻の調査や、中国石窟のルーツにも関わるインドの石窟の仏教図像についての調査を行った。 これまでに取得した図像データを基に、中国重慶大足石刻の薬師如来の図像と仏龕の尊像構成に関する論考、中国敦煌石窟の唐代の薬師経変の図像に関する論考、敦煌石窟吐蕃期の千手観音の図像に関する論考、敦煌莫高窟第323窟における窟内図像プログラムに関する論考を、誌上あるいは口頭で発表した。 このうち、大足石刻の薬師寵の論考では、薬師如来と地蔵菩薩や尊勝陀羅尼幢とがいずれも地獄済度という共通の意味をもって寵内で組み合わされていることを明らかにした。敦煌石窟の薬師経変の論考では、薬師経変図中に設斎の様子が描き込まれていることから、薬師信仰の中で設斎が重要な行為であったことが確認されるとともに、そうした設斎図が中唐期以降の敦煌の窟内正面の仏龕内壁にも描かれる例から、現在欠失している窟本尊が薬師如来であった可能性を指摘した。窟内全体に関わる本尊に対する言及と、窟内空間において設斎と図像とが密接な関係性を持つという見解は、薬師如来だけに限らず、他の仏教図像研究にも適用できるものとして重要である。また、敦煌莫高窟第323窟の研究では、周壁図像の検討から、窟内全体の図像が相互に関連していること、図像を観ていく順序、石窟造営の目的の一端、および石窟造営時期についての新たな見解を提示し、石窟空間の機能を踏まえて仏教図像を解釈することの有効性が示されるに至った。
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