2011 Fiscal Year Annual Research Report
脳虚血/再灌流障害へのリポソームDDS技術応用による新規治療戦略構築と展開
Project/Area Number |
10J55523
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
石井 貴之 静岡県立大学, 薬学研究科, DC1
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Keywords | リポソーム / Drug delivery system / FK506(タクロリムス) / 脳虚血/再灌流障害 |
Research Abstract |
脳虚血/再灌流障害は脳梗塞患者に血流再開処置を施した後に生じる二次的な障害であり、患者の予後不良に大きく関与している。しかし、未だ確固たる治療法はなく、有効な治療薬もほとんどないのが現状である。私は、リポソームdrug delivery systemによる選択的な薬剤送達が当該障害に有効であろうと考え、その応用可能性を示してきた。本年度は、近年その神経保護効果が注目されているFK506(タクロリムス)のリポソーム製剤による脳虚血/再灌流障害の治療を試みた。FK506は疎水性低分子であるため、脂質2重膜中に内封するよう試みた。様々な脂質組成から内封率40%となる脂質配合比を見いだし、さらに長期血中滞留性を付与するポリエチレングリコールのリポソーム膜への修飾を行ったリポソームをFK506リポソームとし、その新規脳保護薬としての有用性を検討した。神経様細胞を用いたin vitroでのMTTアッセイにおいて、FK506封入リポソームは濃度依存的にH_2O_2毒性を軽減し、リポソーム化後もFK506の薬理活性が保持されていることが確認された。病態モデルラットを用いた動態解析の結果、再灌流直後に投与されたFK506リポソームは顕著な脳細胞死が観察される以前から、血液脳関門の破綻に伴い虚血/再灌流部位の広域に集積することが示唆された。また、脳血管から脳実質へと漏出したリポソームは神経細胞やグリア細胞に取り込まれている様子が観察された。実際にFK506リポソーム投与により好中球の脳実質への浸潤や脳細胞のアポトーシスの有意な抑制が認められた。さらに、再灌流直後のFK506リポソーム単回投与により、予後の指標となる運動能の長期的な改善や、脳虚血/再灌流障害に伴う血流不全の改善が認められた。これらの治療効果はFK506投与群と比較して全て有意な差があった。以上から、FK506リポソームが新規脳保護薬として有用であることが示唆された。さらに、低分子であるFK506のリポソーム化が脳保護効果の有意な向上に繋がったことは、臨床試験をドロップアウトした多くの低分子化合物に対し当該治療戦略が光明となることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究はリポソームDDSを駆使した新規脳保護薬の開発を目指している。本年度の研究で有用性が示されたFK506リポソームは、治療効果が数倍に上昇したこと、単回投与で効果を発揮したことから臨床応用が期待できる。また、他の低分子にも同様の戦略が適応可能であることが示唆され、当該治療戦略の汎用性は高いと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
キャリアの改善が最大の課題である。脳梗塞、および脳虚血/再灌流障害は急性疾患であるため速やかな処置を必要とする。そのため、早期から選択的に病巣部へ薬剤を送り届けられるキャリアが望ましい。しかし、現在のキャリアでは長期血中滞留性による受動的送達しか見込めず、またその到達量も決して十分とは言えない。ところで、リポソームの利点の一つとして、様々な機能性分子を脂質誘導体にすることで修飾できることが挙げられる。そこで、神経細胞に特異的な結合を示す抗体やペプチドを利用し、能動的に薬剤が送達可能な新規キャリアの開発を試みたい。目的を達成できる分子の報告は未だ非常に少ないため、独自に探索を試みている最中である。
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Research Products
(4 results)