Research Abstract |
目的:HIV-1感染症の治療はHIV-1の排除が重要である。最近,逆転写酵素阻害剤とプロテアーゼ阻害剤の組み合わせにより,血中ウイルス量を測定感度以下に低下させることが可能となったが,静止期細胞に感染しているウイルスの除去は困難である。我々は,これまでウイルス分離株により感染性の違いがある可能性を指摘している。今回は,さらに静止期T細胞への感染性に関与するウイルスゲノムの領域と,ウイルス増殖サイクルでの作用部位を検討した。 方法:HIV抗体陰性のドナーより,CD4陽性T細胞を分離精製した。得られた細胞をウイリス液と37℃2時間インキュベートした後,遊離のウイルスをよく洗い流した。感染後4日間にPHA+IL-2によって活性化刺激を与え,経時的に培養上清中のp24gag抗原量を定量した。ウイルス株はJR-CSF,JR-FL,SF162,BaL(R5株),NL4-3(X4株),SF13(R5X4株)を使用した。さらにJR-CSF,JR-FL,NL4-3については,それぞれ相互に組み替えたキメラウイルスも作成した。また定量的PCR法を用いて,感染細胞内でのウイルスDNA合成効率も検索した。 結果:JR-FL,BaL,NL4-3,SF13は活性化刺激後に多量の子孫ウイルスを産生したが,JR-CSF,SF162は活性化刺激後にも子孫ウイルスを産生はしなかった。そこで,責任部位を決定するためにキメラウイルスを用いたところ,env領域ではなく,polからvpuまでの領域が感染効率を決定していることが示唆された。一方,PCRを用いた解析からは,感染できない株は,逆転写,あるいはそれ以前(吸着,侵入,逆転写)の過程の効率が悪いことがわかった。 結論:静止期T細胞への感染性は,分離株依存性で,polからvpuまでの領域がその感染性を決定している。感染できない株は逆転写以前の段階での効率が悪い。 今後の予定:今後は,キメラの細かい検討を行い,静止期T細胞への感染性を決定する部位を限局化するとともに,naive T cells,memory T cellsなどを標的とした際の感染性や,さらに感染成立に必要な最低限の刺激の検討などを予定している。
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