1999 Fiscal Year Annual Research Report
西洋古典文献の伝承史と中世東西地中海世界の修道制をめぐる実証的研究
Project/Area Number |
11164204
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
秋山 学 筑波大学, 文芸・言語学系, 講師 (80231843)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
桑原 直己 筑波大学, 哲学・思想学系, 助教授 (20178156)
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Keywords | 徳 / 友愛 / 正義 / 親和的認識 / 聖霊 / 修道制 / 出エジプトの原則 / 伝承 |
Research Abstract |
2年間にわたる本研究計画の第1年目に当たる今年度は、秋山・桑原両名が月1回定期的に研究発表会を催し、相互の研究動向について報告しあった。まず桑原は、トマス・アクィナスにおける倫理哲学を理解するための一つの手掛かりとして、「親和的認識」に着目した。桑原によれば、トマス・アクィナスは「徳」「友愛」「正義」「責務」といった様々なテーマを、アリストテレスと古代哲学から継承しつつキリスト教神学により変容させる上で「聖霊の賜物」の自覚とエネルギーに依拠している。この賜物は共同体における相互の「親和的認識」において働くが、トマスがこのような発想に至った根幹には、彼の生活の座たる托鉢修道会と、使徒伝承を継ぐ修道制の歴史が厳然として存在する。この他、今年度討議に取り上げられたテーマとしては「随順的可能性」「類比」などがあるが、いずれも古代哲学の中世における受容と変容に根本的に関わるものであった。 一方秋山は、西洋古典文献の伝承史を中世哲学・精神史的研究の視点から再検証する作業を継続的におこなった。論文「バシレイオスと「ルネッサンス」」では、総じて9世紀以降に成立する現存西洋古典文献手写本をめぐり、当時の地中海東西の写字修道士たちの精神的地平が、ギリシア教父神学および初期修道制にまで遡ることを明らかにした。その中でさらに、修道制の父祖的存在であるバシレイオス像が、その弟であるニュッサのグレゴリオスによる位置づけを通じて旧約のモーセに比せられるものを持つに至り、総じて写字行為を、モーセによる律法授受に似た地平において成立させる可能性を披いたこと、また「出エジプトの原則」に照らし、異教文化の積極的利用へと向かわせたことを仮説として提示した。また16〜17世紀ルネッサンス期の神学者たちの原典訳と解説を通じて、彼らが古典文献と教父神学に立脚しつつ反対宗教改革期の神学を形成した点を強調した。
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Research Products
(7 results)
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[Publications] 桑原直己: "トマス・アクィナスにおける親和的認識について"筑波大学哲学・思想学系紀要『哲学・思想論集〔平成11年度〕』. 25(未定). (2000)
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[Publications] 秋山 学: "バシレイオスと「ルネッサンス」-神学と人文主義の関係をめぐって-"地中海学研究. XXII. 65-86 (1999)
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[Publications] 秋山 学: "Vergilius,Aeneis VI,601-622-冥界譚とテキスト批判-"エポス. 18. 66-73 (1999)
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[Publications] 秋山 学: "ヘシオドス『神統記』における詩人の召命-預言者と自然啓示-"筑波大学文芸・言語学系紀要『文藝言語研究 文藝篇』. 36. 1-16 (1999)
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[Publications] 秋山 学: "聖域としての悲劇-『コロノスのオイディプス』の開示する世界-"筑波大学文芸・言語学系紀要『文藝言語研究 文藝篇』. 37. 71-88 (2000)
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[Publications] 秋山 学: "古代中世地中海世界における書物と書物観『言語科学と言語態』第1期『言語態-ことばの生存領域研究-』III『書物の言語態』所収"東京大学出版会(未定). (2000)
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[Publications] 秋山 学: "〔解説・訳注〕『中世思想原典集成』第20巻『近代のスコラ学』D・デ・ソト『正義と法について』 J・デ・マリアナ『王と王の教育について』 M・カノ『神学的典拠について』 R・ベラルミーノ『被造物の階梯による神への精神の飛翔』所収"平凡社(未定). (2000)