2000 Fiscal Year Annual Research Report
ユダヤ教の法論理的思考の特徴とその形成に果たしたタルムードの影響
Project/Area Number |
11164212
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
市川 裕 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 助教授 (20223084)
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Keywords | ユダヤ教 / タルムード / 福祉 / 正統 / 異端 / 神の意志 |
Research Abstract |
ユダヤ教がラビを中心とした社会形成を行い,その共同体理念を聖書とタルムードに置いたことによって,タルムードの学習はユダヤ人社会の古典として規範的拘束力となり,独自の法論理的思考を養成した。このことを以下の2つの項目を中心にして提示した。 (1)いわゆるラビユダヤ教の全盛期(70CE〜1789CE)の宗教史的位置づけを共同体倫理の観点から考察してみると,近現代の国民国家が社会福祉上果たしてきた役割が実は宗教史的観点から見直すことが可能であり,中世の宗教的共同体の担った役割を継承していることが論証できた。 (2)正統と異端の枠組みを,タルムードの二つの規定(ハギガー篇2:1ミシュナ及びサンヘドリン篇10:1ミシュナの議論の分析を通して提示した。一般にユダヤ教はイスラム教とともに,生活様式としての宗教という面が強く,キリスト教が信仰によって正統と異端を厳しく唆別することときわだった対比をなしていると考えられる。しかし,ユダヤ教が西暦70年のエルサレム神殿崩壊により空間的神聖構造を失う危機に直面したときユダヤ教がどういう論理によって共同体の枠組みを形成したかを調べていくと,トーラーに示された神の尊厳という一点において,正統と異端を識別しようとする明確な意図を読み取ることができる。その際,神の意志とは何か,という問いは,信仰内容というよりは人間の行為規範として認識され,その上,神の意志をめぐる論争は積極的に肯定され,その論争が双方に聖書的根拠の提示を要求し,極めて高度な論理的整合性を課した,ということがラビユダヤ教の際立った特徴となった。これがユダヤ教2000年の枠を決定したのである。
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Research Products
(1 results)