1999 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11164220
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大貫 隆 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (90138818)
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Keywords | 悪霊 / 狂犬病 / 恐水病 / 犬人間 / 狼人間 / 生の肝臓 / 延命策 / 魔術 |
Research Abstract |
今年度はマタイ12,43-45/ルカ11,24-26に収められているイエスの悪霊祓いの記事に集中的に焦点を当て、その背後に狂犬病に関する独特な表象法があるのではないかとの仮説を立て、これを論証するために、狂犬病(別名、恐水病)についてのユダヤ教およびキリスト教の領域の証言とヘレニズム文化圏の証言を可能な限り広範に踏査し、それぞれの悪霊表象との関連を調べた。その結果、まず文献学的な事実として確認できたのは、これらの領域のいずれにおいても、狂犬病とそれに伴う恐水症状の認識が明瞭に認められることである。また、後2世紀以降のユダヤ教の文献(ラビ文献)には、「病気(狂犬病)の犬」を指すラテン語からの借用語「カニス・コレリクス」(canis cholericus)と「犬人間」あるいは「狼人間」を意味するギリシア語からの借用語(κυνανθρωποσとλυκαυθρωποσ)が現れており、少なくとも後1世紀にまで逆上るヘレニズム文化圏の表象がその背後に潜んでいることが明白になった。同じことは、大プリニウス、ディオスコリデース、ガレーノスが狂犬に噛まれた場合の延命策の一つとして当の狂犬の生の肝臓を使った処置法について行っているのと同じ報告が、ユダヤ教側の文献(ラビ・マッテヤ)にも現れる事実からも裏付けられた。逆に狂犬病を悪霊のしわざとする見方、あるいは魔術と関連させる見方はユダヤ教およびキリスト教の文献の方にこそ明瞭かっ頻繁に確認されるが、ヘレニズム文化圏(特にテユアナのアポロニオスの伝承)にも明瞭に確認された。
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[Publications] Takashi Onuki: "Tollwut in Q? ein versuch uber Mt12, 43-45/Lk11,24-26"New Testament Studies (Cambridge). 46. (印刷中) (2000)
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[Publications] 大貫隆: "グノーシス考"岩波書店. 397 (2000)
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[Publications] 大貫隆: "グノーシスの神話"岩波書店. 312 (1999)