2000 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11164220
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大貫 隆 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (90138818)
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Keywords | 悪霊 / 狂犬病 / 恐水病 / タルムード / エルカザイの書 / 大プリニウス / フィロストラトス / ディオスコリデース |
Research Abstract |
本研究は古代地中海世界のさまざまな文化圏において、庶民の日常知と生活行動を規定した「悪霊」表象に焦点を当て、それらの間の差異と相互干渉を明らかにするために、(I)ユダヤ教およびキリスト教文化圏から、バビロニア・タルムード『ヨーマ』篇83b-84b、パレステイナ・タルムード『ヨーマ』篇8,45b,12、パレステイナ・タルムード『テルモート』1,40b,23、バビロニア・タルムード『ハギガ』篇3b、『エルカザイの書』(ヒッポリュトス『全異端反駁』IX,15,4-16,1)(II)ヘレニズム文化圏から、アリストテレス『動物誌』VIII,22、大プリニウス『自然誌』XXIX,32、ディオスコリデース『薬剤について』II,49、ガレーノス『単純な薬剤の調合と効力について』XI,10、フィロストラトス『テュアナのアポロニオス伝』IV,10;VI,43、パウサニアス『ギリシア記』VIII,3,19,2、ルキアノス『嘘好み』31、『コプト語魔術文書』(London MS.OR.1013A)、『ギリシア語魔術文書(PGM IV,1873-1929;XII,122-143;XVII,1-25:XIX,5-16を該当資料として蒐集・分析した。その結果、狂犬病を悪霊のしわざとする見方、あるいは魔術と関連させる見方が、ユダヤ教およびキリスト教の文献の方には明瞭かつ頻繁に、ヘレニズム文化圏にも頻度は劣るもののやはり明瞭に確認された。ここから本研究は焦点をマタイ12,43-45/ルカ11,24-26の「汚れた霊」についての記事に絞り、この記事の元来の語り手も聞き手も暗黙の内に、追い出された「汚れた霊」を狂犬病(別名「恐水病」)に罹った犬のイメージで表象しているという仮説を提示することによって、この記事に含まれる二つの謎(「汚れた霊」に人間と動物のイメージが重ねられていること、追い出された霊が「水のない場所」に休む場所を探す」)を解決した。なお、本報告は今年度で第I期を終了する特定領域研究『古典学の再構築』の総括班報告に、より詳細な形で掲載されている。
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[Publications] 大貫隆,T.ONUKI: "Tollwut in Q? Ein Versuch uber Mt12.43-51 Lk 11.24-6"New Testament Studies (Cambridge). 46. 358-374 (2000)
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[Publications] 大貫隆(分担執筆): "『「光」の解読』,坂口ふみ 他編中分担執筆「ロゴスの受肉とソフィアの過失」"岩波書店. 235(165-195) (2000)
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[Publications] 大貫隆(分担執筆): "『世界の神話101』 (分担執筆「創世記の天地創造神話」 他"新書館. 254(34-53) (2000)