1999 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11164278
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Research Institution | Nagoya Keizai University |
Principal Investigator |
西村 賀子 名古屋経済大学, 法学部, 助教授 (30180649)
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Keywords | 西洋古典学 / テクスト伝承 |
Research Abstract |
本研究の目標のひとつは、西洋における古典文学テクストの伝承・保存・研究・普及の解明である。すなわち西洋において、古典文学テクストの伝承・保存・研究・普及などがどのような価値観・世界観のもと、いかなる過程を経て行なわれてきたのか、そしてそれがヨーロッパという文化統合体の形成にどのように作用したかという問題を検討・統括することである。 今年度の研究成果としてあげられることは、このような観点から、ヨーロッパにおける古典テクストの伝承を可能にした三つの要因を抽出し、分析したことである。すなわち(1)物理的要因、(2)社会的要因、(3)宗教的要因である。分析の対象は、現存する文献の総量とほぼ同じくらいの文献を保存したえた時期であるルネサンス後期までとし、17世紀以降については割愛した。 物理的要因については、書籍の素材・形態・字体の変異などの進歩がたえず両義的に作用していること、社会的要因については、図書館のような公共施設や学校・大学などの教育制度が古典の保存に不可欠であったこと、宗教的要因については、古典に対するキリスト教の功罪はあいなかばするものの、少なくとも、教父の古典への寛容な態度と修道院制度が古典の伝承を可能にしたことを評価すべきであることを論じた。 以上の分析を通して、現代における古典研究の問題点として、古典の衰退は文化の危機そのものであること、したがって今こそ古典学の再復興や古典の普及が必要であることを指摘した。
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