Research Abstract |
導電性高分子が有する最大の特徴は,可逆なドープ/脱ドープができることであろう。ドーピングによって起こる導電性高分子の物性変化は,光学的・電気的性質や電子状態の変化などの他,幾何寸法が変化することも知られしている。これはドーピングによる高分子鎖の形態変化やドーパントの出入りによる立体障害効果にもよっている。筆者らはピロールをモノマとして電解重合法により導電性高分子繊維(この場合,ポリピロール,Ppy繊維)の作製を試みている過程で,円筒状Ppy繊維を得た。Ppy繊維を短冊状に切り開き,その電気化学的性質を調べたところ,酸化一還元過程に依存して一方向にのみ湾曲する現象を観測した。即ち,本手法で作製したPpy繊維は異方性を有しており,ある種の傾斜機能材料として活用できることを示唆している。そこで本研究では,湾曲動作特性を詳細に調べ,異方性を示す原因,駆動力の発生源,動作機構などを明らかにすることを目的とし,外部刺激にシンクロナイズするデバイスの構築について検討した。Ppy繊維の屈曲現象はドーパントの出入りによる体積変化に起因していると考えられるが,アニオン(p-Ts),カチオン(Na^+)のどちらによるものかを明確に把握しておく必要がある。TEAp-Tsを用いた場合,明瞭なレドックス反応は観測されず,従ってPPy繊維の変位も認められない。高分子ドーパントであるSPSNaを用いた場合には,明瞭なレドックピークが認められ,p-TsNaを用いた場合のそれとほぼ一致するとともに,Ppy繊維の変位も観測された。これらの結果は,TEA^+,p-Ts^-はドーパントとして出入り不可能であることを示唆しており,SPS^-は負に荷電した高分子であるため,このような巨大分子の出入りは考えにくい。従って屈曲現象はNa^+の出入りに起因していると考える。カチオンが大きくなるほど到達時間は長くかかり,カチオン半径が約3.5A以上になると湾曲は認められなくなる。言い換えれば,カチオン半径が大きくなるに連れて,徐々にPPy繊維体積内に侵入困難となるため液面到達時間が長くなると考える。これまでのところ,PPy繊維はカチオンの出入りに伴う体積変化により湾曲していると考えられるが,湾曲現象はPPy繊維の収縮によるものか?あるいは膨張によるものか?は明確になっていない。還元過程で局部的に圧縮応力の勾配がPpy体積内で発生し,収縮する。一方,酸化過程ではPpyは膨張し,逆の現象が起こる。 ここで述べた結果は,駆動装置に限らず人工筋肉,分子機械など機能的構造体を形成する有力な材料の一つであり,固体/液体界面の電子現象が材料の機能,性能に大きく影響することを示す。
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