Research Abstract |
昆虫のような微小脳をもつ動物に,脊椎動物がもっている意識の機能,たとえば生理的覚醒あるいは注意や気づきといった機能があるかどうかは,これまでほとんど問題にされてこなかった。そこで,われわれが見出したコオロギの死にまね行動をモデルとして,この問題にアプローチした。コオロギは,胸部を軽く圧迫すると,全身を屈曲させ,呼吸を止め,数分間不動の状態となる。このとき,コオロギには2つの際だった特徴がある。その1つは,抵抗反射の消失によっていいなりの姿勢となるカタレプシーがおこること。2つ目は,感覚刺激に対する反応が著しく低下することである。そこで,死にまね中のコオロギに,覚醒時には特徴的な運動反応を誘発する侵害性の刺激を与え,行動と神経活動の記録をおこなった。コオロギは,超音波刺激に対して,負の音源定位と関連する「びくつき反応」を示すが,死にまね中,反応は抑制され,同時に脳からの下行性神経の応答も抑制された。触覚と尾葉への接触に対しては,「飛び退き反応」を示すが,死ねまね中は,同行動も神経応答も抑制された。尾葉への低周波音応答に対しては,寄生蜂の接近に対する防御姿勢のための「びくつき反応」を示したが,死にまね中は行動が抑制され,巨大神経のうち,覚醒と関係する伝導速度の速い神経応答がなくなった。一方,尾葉への風刺激に対しては,閾値付近の弱い刺激によっても「逃避」が誘発され,これは,死にまね中も効果があり,覚醒をひきおこした。神経レベルでも抑制はみられていない。これらから,死にまね中の抑制には,感覚種の違いによって抑制できるものとできないもののあることがわかった。実験デザインは多少異なるが,これまでに,脳の抑制に関する論文をすでに3編出している。
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