2000 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11215209
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Research Institution | The High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
那須 奎一郎 高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所・物質科学第一研究系, 教授 (90114595)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
富田 憲一 高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 助手 (70290848)
岩野 薫 高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 助手 (10211765)
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Keywords | 光誘起相転移 / 多重安定性 / 自己増殖 / 熱相転移との相異 |
Research Abstract |
「光誘起相転移と通常の熱的相転移とは相違するのか否か」につき考察した。光誘起相転移が起きる為の主たる条件は、基底状態が潜在的多重安定性を持っている事である。これは真の基底状態のすぐ上に、擬基底状態(、又は巨視的励起状態)が存在する事を意味する。しかし、このような多重安定性が実際に実現していれば、この擬基底状態は、当然通常の熱的相転移でも実現する事が十分考えられる。従って、標記の相違は概念的に極めて重要な問題となる。 これに関連し、スピン・クロス・オーバー錯体を対象にした実験で、最近、重要な進展が得られた。この物質は低温では反磁性相にあり、約120Kで通常の熱的相転移を起こし常磁性相となる。一方、低温のままで可視光を照射しても常磁性相になる事が既に知られている。ところが、神野・田中・鎌田等はラマン散乱と光電子の測定により、低温で光誘起された常磁性相と120K以上での常磁性相とは明瞭に異なる事を立証した。これは光誘起相転移の研究全体にとって、極めて重要で大きな研究成果である。この理由から、我々は一般的な立場から、この相違を理論的に考察した。 1)低温での光誘起相と通常の熱励起相とは温度が異なる以上、同じではあり得ない。 両相とも同じ擬基底状態を反映しているのであるから相互に似てはいるが、温度が異なる以上同じではあり得ない。絶対零度での光誘起相は単なる集団的励起状態であり、何れは消失する。しかし、その寿命が物質内での熱伝導に要する時間より十分長ければ、温度が確定した局所平衡状態となり、その温度は、当然光励起の始状態である基底状態と同じである。光誘起相と通常の熱励起相とは秩序の性格は似ていても、秩序の大きさや揺らぎの幅は同じではあり得ず、定量的には別の状態となる。 2)低温での光誘起相では、基底状態相にも熱励起相にも現れない、新しい相互作用とそれによる対称性の破綻が発見出来る。 相転移とは対称性の破綻と低下に他ならず、基底状態とは、高温相の持つ高い対称性が、温度の降下につれて破綻した結果出てきたものである。如何なる対称の破綻が起きるかは、その物質に内在する相互作用の強さによって決定される。様々な相互作用とそれに対応する対称性の破綻が起こり得るが、その中で最も強い相互作用を体現した対称性の破綻が起き、基底状態が生まれる。しかし、一度この最も強い相互作用を体現した強い対称性の破綻が起きてしまうと、それに対立する様々な相互作用は、当然封印されてしまう。例えば、大きな構造変化はスピンの自由度を封印する。 ところが、絶対零度での光誘起相転移は、絶対零度のまま、高い対称性へ戻す事に他ならず、対立する様々な相互作用も絶対零度で封印が解かれる。従って、光で高い対称性の状態が誘起されても、そのまま安定には存在できず、対立する別の相互作用による新しい対称性の破綻を起こす。例えば、大きな構造変化が光で消失すると、スピンの自由度が復活し、今度は、磁気的秩序が光誘起相に発生する。この対称性の破綻は、熱励起された高温相では、温度が高いので起こらない。 通常の認識論では、基底状態でも熱励起相でも明瞭に観測出来ない相互作用は「存在しない」と見做される。低温での光誘起相では、新しい相互作用とそれによる新しい状態を発見出来る。
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Research Products
(3 results)
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[Publications] Keiichiro Nasu: "Nonlinear nonequilibrium quantum dynamics of Photoinduced Structural Phase Transitions"J.of.Luminescence. 87-89. 86-89 (2000)
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[Publications] H.Zheng and K.Nasu: "Effects of Quantum Lattice Fluctuations on absorption spectrum of BaBiO_3"Physica B. 292. 344-353 (2000)
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[Publications] N.Tsuda,K.Nasu,A.Fujimori and K.Shiratori: "Electronic Conduction in Oxides"Springer-Verlag. 365 (2000)