2001 Fiscal Year Annual Research Report
『大智度論』の総合的研究-その成立から中国仏教への影響まで-
Project/Area Number |
11410006
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
加藤 純章 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (40101638)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
杉山 寛行 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (50135274)
宮治 昭 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (70022374)
和田 壽弘 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (00201260)
大野 栄人 愛知学院大学, 文学部, 教授 (10113060)
斎藤 明 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (80170489)
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Keywords | 大智度論 / 百論 / 大荘厳経論 / 衆経撰雑譬喩 / 弥勒大成仏経 / 十住毘婆沙論 / 続高僧伝 / ヴァイシェーシカ思想 |
Research Abstract |
本年度は最終年度である。 1.加藤は『大智度論』本文の引用中に他の羅什訳諸経論、特に『十住毘婆沙論』『大荘厳経論』『衆経撰雑譬喩』『弥勒大成仏経』等が部分的には要約されながらも、全同の文字表現であらわされている事実を確認した。このうち『十住毘婆沙論』については、伝統的龍樹著作説の証明にもなるであろうが、全体として羅什訳諸経論の引用の仕方を調査することによって、羅什の『大智度論』への関わりがかなり明らかになると期待される。しかし、このような引用研究だけでは、作者問題は決して解決しない。すでに近年武田浩学氏が論じられたように、『大智度論』の根本主張を明らかにする必要があろう。2.斎藤は『大智度論』の内容と『中論』のそれとの違いを、いくつかの問題について考察した。3.和田は『大智度論』よりやや後代のPadarthadharmasamgrahaによって確立されたヴァイシェーシカ思想を今一度整理し平明に提示した。これは『大智度論』研究に極めて重要な作業となる。4.宮治は『大智度論』と弥勒系諸経典を比較しながら、西域の弥勒像の諸作例を提示し、弥勒信仰がシルクロードの各地に盛んであったことを明らかにした。5.杉山は僧叡・僧肇等の羅什の弟子たちによる『中論』『百論』等の「序」の中に、仏教と儒教の表現の混淆あることを確認した。6.大野は主に『続高僧伝』を用いて隋・初唐における『大智度論』の研究が広範囲に行われていた事実、また三論宗の吉蔵が『大智度論』をしばしば利用しながらも政治的配慮からこれに強い批判を加えていたこと、そして中国仏教における『大智度論』の深い影響は結局、禅定の面で天台智〓の体系の中に結実していったことを明らかにした。作者問題には結論が出なかったが、以上の諸研究によって従来の『大智度論』研究をさらに一歩進めることができたと考えている。
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