Research Abstract |
視覚系は,対応する刺激情報が一部欠損しているにもかかわらず,それを補い,欠損がない場合と同等の知覚内容を生成することができる.このような視覚的補完現象を包括的に理解する際に鍵となる現象として,視覚的ファントムを取り上げた.この現象は,中央部分を帯に遮蔽された縞模様を観察すると,縞が帯の前面につながって知覚される錯視であり,遮蔽部分が見えないのに存在が知覚される非感性的補完と,遮蔽部分が実際に知覚がされる感性的補完の相互移行を観測することができるユニークな特性を備えている. Kitaoka,Gyoba & Kawabata(1999)は,コントラストが低い誘導縞では,帯の輝度を十分に明るく,あるいは暗くすると,ファントムが明所視条件でも頑健にあらわれることを発見し,Photopic phantomと名づけた.Brown,Gyoba,& May(in press)は,誘導縞を斜め方位にした場合に,ファントムが誘導刺激のグローバル形状に対する高い忠実度をもって生起することを見出し,ローカルな輝度変化に即して生じる縞誘導効果とは異なる特性をもつことを明らかにした.Kawabata,Gyoba,Inoue,& Ohtsubo(1999)は,空間周波数が十分に低い縞で狭い帯幅であれば,生後1ヶ月未満の乳児でも一部遮蔽された縞の連結性を知覚できることを示した.さらに,Kawabata,Gyoba,Inoue,& Ohtsubo(in press)は,4ヶ月児ではより広い帯幅でも縞の連結性が知覚されるが,補完が生起する際の縞の空間周波数と帯幅の関係は一定範囲内に制限され,ファントムと共通点があることを見出した.太い領域が細い領域の前面に知覚される現象はPetter効果として知られているが,Kitaoka,Gyoba,Sakurai,& Kawabata(in press)は,空間周波数が低い縞が細い帯の前面に知覚されるファントムと多くの共通性を持つことを明らかにした. このように,ファントム研究が突破口となって,視覚的補完現象の包括的説明を構築する下地は十分に準備できたといえる.
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