2002 Fiscal Year Annual Research Report
地球温暖化ガス排出権取引制度のデザイン:理論と実験
Project/Area Number |
11430002
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
西條 辰義 大阪大学, 社会経済研究所, 教授 (20205628)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大和 毅彦 東京工業大学, 大学院・社会理工学研究科・価値システム専攻, 教授 (90246778)
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Keywords | 京都議定書 / 排出権取引 / 補完性 / 約束期間リザーブ / 被験者実験 / 実験経済学 |
Research Abstract |
本年度は,京都議定書における排出権取引の制約である補完性に注目した.2001年3月,ブッシュ大統領が京都議定書を批准しないと宣言したことを受け,補完性の中身が変容する.アメリカが批准しないとなると,パワーを持つのはロシアである.なぜなら,55%条項(排出量の上限のある国々において1990年における温室効果ガス排出総量の少なくとも55%を占める国々が批准せねば,議定書が発効しないという条項)の鍵を握るのがロシアになるからである. アメリカの不参加を受けて,EUの新たな補完性提案は,基本的に買い手ではなく,売り手に制約をおく,というものに変容した.ロシアは排出権の巨大な供給国になるので,売り手に制約をおくことは,ロシアに有利な制度といえる.この基本的に売り手に制約をかける提案は,約束期間リザーブ(Commitment Period Reserve,ないしはCPR)と呼ばれており,2001年の第7回締約国会議で採択された.排出上限を持つ先進諸国は,(各国の排出上限である)約束割当量の90%を下回らない量ないしは直近にレビューを受けた目録値のどちらか低い方を留保すべし,いうのが約束期間リザーブの中身である. 2002年に40人の被験者を用い,18の実験を実施した.この実験では,昨年度の売り手責任実験をベースにして,CPRがある場合とない場合の比較をしている.まず,これまでの実験と同じように2つのケースを観察した.次に,被験者が排出権取引に慣れると,CPRがない場合はある場合よりも多くの削減をほぼ同じ費用で達成した.最後に,CPRが各国の利益最大化行動の妨げになることはほとんどないことが判明した.つまり,「効かない制約」を制約が効いているかどうかを確かめるためのモニタリング費用をわざわざかけて導入する必要性はない,という結果を得た.
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[Publications] 西條辰義: "風力エネルギーへの期待:RPSと固定価格買い取り制度"風力エネルギー. Vol.26(1). 2-4 (2002)
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[Publications] 饗場崇夫, 西條辰義: "京都議定書の批准にむけて"経済セミナー. 4月号. 40-44 (2002)
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[Publications] 草川孝夫, 西條辰義: "ダブルオークションと相対取引"経済セミナー. 6月号. 80-85 (2002)
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[Publications] 西條辰義: "京都議定書と国内制度設計"エネルギーレビュー. 6月号. 40-43 (2002)
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[Publications] 西條辰義, 安本皓信: "広く薄い炭素税では失敗する"エネルギーフォーラム. 7月号. 56-58 (2002)
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[Publications] 西條辰義: "制度設計工学序説:排出権取引を事例として"ECO-FORUM. 2月号Vol.21No.3. 4-19 (2003)