Research Abstract |
今年度の当初計画は,(1)ピコ秒赤外吸収分光装置の改善,(2)ジメチルアミノベンゾニトリル(DMABN)等,分子内電荷移動(CT)励起状態の分子構造の検討,を中心としたものであった。まず(1)の点に関して,Nd:YLF再生増幅器の改善,新しい赤外発生用非線形結晶の利用,等を試みたが,双方の試みとも,現時点まででは以前に比べて装置の性能を上げるには至らず,結局基本構成は以前のままで,細かい最適化を施して測定を続行した。次に(2)の点については,国内外に共同研究者を得て,以下のような成果を上げることができた。DMABNの同位体置換種のピコ秒赤外吸収を,自然組成体の他5種類について測定を完了した。その結果,観測されている4-5本の吸収帯の帰属を,ほぼ明確にすることができた。他の研究者によるデータ等も総合し,CT励起状態において,ベンゼン環がベンゼノイド性とキノイド性を併せ持った,中間的な性質をもつ電子構造であることを示す結果を得た。また環-アミノ基間のC-N結合は,単結合性を保っていることが明らかとなった。更に,この状態における分子構造についてより具体的な情報を得るために,文献の理論計算による励起分子の振動スペクトルと実測振動数を比較し,また自らも理論計算を併用した振動解析を試みた。しかし計算される励起分子の分子内振動は,平面型とねじれ型の構造で,予想したほど異なる結果を与えず,実測との比較から最終的な結論を得るまでには,残念ながら至っていない。DMABNに類似の構造を持つ分子として,4-(ピロール-1-イル)ベンゾニトリルについて,CT励起状態の良好なスペクトルを得ることに成功した。また強い1本のバンドについて,振動緩和によると見られる,波数の遅延時間依存性が見られた。ベンゼン-ピロール環間のC-N伸縮振動によると思われるバンドは,DMABNよりも若干低い波数に見られ,やはりこの結合の単結合性を示唆した。
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