1999 Fiscal Year Annual Research Report
放射光2次元蛍光X線分析によるヒ素中毒患者の生検試料の研究
Project/Area Number |
11440219
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
中井 泉 東京理科大学, 理学部, 教授 (90155648)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山内 博 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 助教授 (90081661)
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Keywords | ヒ素中毒 / 放射光蛍光X線分析 / マイクロビーム |
Research Abstract |
本年は、和歌山の急性ヒ素中毒患者及び中国内モンゴル地域で発生している慢性ヒ素中毒患者の生検試料について、放射光蛍光X線分析を用いて以下の知見を得た。 (1)急性中毒患者の毛髪の伸長方向の分析を行った結果、ヒ素濃度の急激なピークが毒カレー摂取と呼応して見られた。このピークの半値幅はおよそ3mmであり、本外への排出がl0日間前後で行われること、半月以上経過すると、ヒ素のレベルが通常値に回復することが明らかになった。 (2)新生児の毛髪について(1)と同様の測定を行ったところ、ヒ素濃度の急激な上昇部が見られた。これは、母体が摂取した通常レベル以上のヒ素が胎児にも移行したことを示すものであると同時に、胎児に移行するという事実を実験的に明らかにした初めてのことである。 (3)(1)での毛髪の切片を作成し空間分解能5μmのマイクロビームを用いた分析を行ったところ、ヒ素は毛髪外縁部に濃集していることが明らかとなった。この他、生体必須元素である亜鉛は毛髪断面全体に、銅はヒ素と同様に外縁部に分布していることがわかった。 (4)慢性中毒患者の皮膚をパンチバイオプシーにより採取し、凍結切片とした。これに幅0.1-0.08mmのX線を照射し、そこから発生する蛍光X線を半導体検出器により検出したところ、ヒ素は皮膚組織中においてある部分をピークとするような分布を示すことが明らかとなった。また、その他の金属、例えば鉄、銅、亜鉛などもヒ素と同様、皮膚組織中において一つのピークをもつような分布であった。詳細な検討の結果、ヒ素の濃集は表皮と真皮の境界部分に起きていることがわかった。 以上の結果、皮膚、毛髪などの生検試料中のヒ素を組織に対応した形で検出できることがわかった。このような取り組みは本研究により初めてなされたものであり、放射光蛍光X線分析の有用性を示すと共に、ヒ素中毒学上にも極めて有効な手法である。今回得られたヒ素の分布は、外部汚染により付着したヒ素ではないことを示しており、経口摂取などにより体内に取り込まれたヒ素が代謝され、皮膚あるいは毛髪へ蓄積したものであることがわかった。
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