Research Abstract |
湛水条件で生育する水稲にとって,灌漑水温は極めて重要な環境要因である。水温の影響は,根,地上部基部,養分供給量などを通じて現れるため,圃場条件において個々の影響を定量的に評価することは困難である。そこで,まず低水温が根の機能に及ぼす影響を解明するために,水温調節可能な循環水耕栽培装置を製作し,根部のみを冷却したときの水稲の生育を,稲体の水分条件との関連から検討した。品種「きらら397」を1999年6月4日に播種し,7月4日にビニールハウス内の水耕栽培装置5台に移植した。処理は7月14日から21日間,16〜27℃の5温度条件で行った。水耕ベッドの水深は12cmとし,水位は基部下5cmとした。根部冷却は地上部,根の生長を著しく抑制したが,その程度は地上部,特に葉面積で著しかった。その結果,根重/葉面積は,低水温によって有意に増加し,その程度は処理日数とともにより顕著になった。株当りの蒸散速度は,いずれの測定日においても低水温条件下で大きく抑制されたが,葉面積当たりの蒸散速度および地上部相対含水率は,8日目に顕著な抑制が認められたものの,温度依存度は日数の経過に伴い減少した。このように,低水温は処理期間を通じて生育を大きく抑制したが,水分状態への影響は処理前期で著しく,中・後期には緩和される傾向にあった。すなわち,低水温に伴う水分吸収の制限は,葉面積を大きく抑制する一方で根重/葉面積比を増加させ,葉面積当たりの蒸散速度や相対含水率の低下を緩和するように作用したものと推察される。このことは,根部冷却条件下における葉面積展開の抑制が,水分吸収の抑制を大きく反映したのものであることを示唆している。今後,水分吸収との関連から低水温における葉の生長過程の定量化を試みる。
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