Research Abstract |
数種類の昆虫病原性微胞子虫の胞子を混合して宿主昆虫に経口接種した場合,ある特定の微胞子虫の胞子が多数産生されることはあっても,他の微胞子虫が完全に排除される現象は報告されていない.この現象は宿主昆虫個体の死によって,一応の決着がつくin vivoの場合より,in vitroで複数の種類の微胞子虫が持続感染系となっている場合により明確にみとめられる.従って,多くの微胞子虫分離株の胞子には,複数の種類の胞子が混在している可能性が完全に除去できない.このため,昆虫病原性微胞子虫類のカリオタイプ及びゲノムサイズに関する研究には純系の微胞子虫を材料とすることが最も重要である. 昆虫病原性微胞子虫6分離株(Nosema bombycis NIS001, Nosema sp. M11,Nosema sp.TB2L1,Nosema mesnili,Microsporidium sp.TB2M1,Vairimorpha sp.M12)の胞子を0.1N KOH中に浮遊し,27℃,30分処理後昆虫培養細胞に接種し,限界希釈法により各分離株から微胞子虫のクローン化株を樹立した.クローン化株の樹立と継代は,微胞子虫が最も高い宿主適合性を示した昆虫培養細胞で行った.N bombycis NIS001,N.sp.M11,N.mesnili,M.sp.TB2M1,V.sp.M12はSpodoptera frugiperda SF21AEII細胞系でクローニングされたが,N.sp.TB2L1はBombyx mori BmX細胞系でのみクローンがえられた. 持続感染系となって継代されているクローン化微胞子虫の胞子を,無菌的に感染昆虫細胞培養から調製した.通常,感染培養を2,000rpm,30分遠心し,沈殿に1%SDS-PBS(-)を加えて胞子を分離し,数回PBS(-)で遠心洗浄して部分精製し,昆虫病原性微胞子虫類の力リオタイプ及びゲノムサイズ研究用の材料とした.また,部分精製胞子はPBS(-)中で,4℃で保存した. 昆虫培養細胞系に人工発芽法で部分精製微胞子虫胞子をクローン毎に接種し,接種後から感染細胞中の微胞子虫をギームザ染色して,所定時間毎にCarl Zeiss製Axioplan2万能顕微鏡でX100のプランアポクロマート対物レンズで観察した.ギームザ染色による微胞子虫の染色体観察は,微胞子虫の栄養型細胞(シゾント)の二分裂開始直後の時期が適していると判断された.また,微胞子虫の染色体と思われる構造は樹枝状で,光学顕微鏡観察による染色体数の算定はきわめて困難であるが,V.sp.M12はn=13のようで,半数体である可能性が高いと判断される.
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