Research Abstract |
本研究は,セル構造体としての木材を特徴づけている細胞の形状・寸法,配列,空隙(比重)を,樹種を代表する1細胞の形態モデルに集約し,そのモデルを用いて,針葉樹材の繊維に直交する方向の弾性率を理論的に求めて,細胞の形態が弾性率の異方性や樹種特性に及ぼす影響について明らかにすることを目的とした。針葉樹材7種の早材および晩材部より全自動回転ミクロトーム(購入備品)を用いて作製した準超薄切片の光学顕微鏡写真をコンピュータ画像化し,それのフーリエ変換によってパワースペクトルを求め,樹種を代表する1細胞の形態モデルを構築した。得られたモデルは,樹種相互でかなり異なり,樹種の明確な特徴を示した。一方,試料より,早・晩材部分を分離し,早材部分については,放射および接線方向の弾性率を測定するための試片を作製し,それらを用いて,縦振動によって,引張の弾性率を測定し,比重との関係を求めた。同一比重で比べた時,樹種間で弾性率がかなり異なるという樹種に依存した特徴的な結果が認められた。細胞モデルの弾性率を求める式は,要素角,細胞壁厚,放射方向に対する接線方向の壁長さ比の関数で,断性率への壁の曲げおよび伸縮変形に対する寄与分が和となる形式で表現できた。モデル計算によって得られた結果は,接線方向については,実験で求めた結果を定量的によく表現することができた。放射方向については,要素角が10度以上の場合には,接線方向と同様,実験値と良好な一致が得られた。放射方向の要素角10度以下のモデル解析には,今後,壁の曲げおよび伸縮変形以外の因子を取り入れる必要性が示唆されたが,全体として,弾性率に及ぼす細胞形態の影響を明らかにすることができた。
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