Research Abstract |
LPS気道投与ラット急性呼吸不全モデルにおいて,これまでの実験で,部分液体呼吸(PLV)を施行した群と通常のガス呼吸を行った群で,気管支肺胞洗浄液および組織抽出液でTNF-α,MIP-2,CINC-1に差が見られなかった。この結果について検討した結果,PLVに至るまでの肺傷害を作成する段階で傷害がPLV群においても強すぎるのではないかという結論に至った.すなわち,LPS投与後30分間のガス換気を両群とも行って急性肺傷害を作る際,通常用いられている10ml/kgのTidal VolumeではVentilator Induced Lung Injuryを生じているのではないかと考えられた.また,PLVを導入する際に10ml/kgで投与していたPerfluorocarbonも,そのまま気道に投与したのではTidal Volumeを増大させ,lung injuryを増長させる結果となることが予想された.後者は米国の研究者達の間でも指摘された事象であった.そこでガス呼吸の際のTidal Volumeを8ml/kgと少なくし,またPerfluorocarbonの投与量も8ml/kgと減らして投与することにした。また両群ともPerfluorocarbon投与後のタイミングで,気管チューブの人工呼吸器との接続を一旦外し,Tidal Volumeを増加させていると思われる余分のガスを除いた上で再接続し,residual volumeが同じになる状態にした。この条件で,2時間までの急性期の実験を再び反復施行した.(1)ガス呼吸群,(2)PLV群ともLPS投与後30分はガス呼吸させて急性肺傷害の成立を待ち,その後ガス呼吸群はそのまま引き続き2時間継続,またPLV群はPerfluorocarbon投与し2時間PLVを施行して,両群とも犠牲死させた。また,実際に急性肺傷害が2時間の間に進展していることを証明するために,(3)LPS投与後30分のガス呼吸を行ったのみで犠牲死させる群を作成し,3群とした。各群とも肺胞洗浄液を採取し,細胞成分はFlow cytometryで解析,上清はELISAでTNF-α,MIP-2,CINC-1を測定した. 結果:(3)の30分の群では肺胞洗浄液上清中のTNF-α,MIP-2,CINC-1いずれもが,更に2時間を経過した(1),(2)群に比べ有意に低値であった。従って2時間の間に肺局所での炎症は進行していることが証明された。しかし(1)群と(2)群との間にはやはり有意な差は認められなかった.またFlow cytometryによる解析でも,マウス抗ラットCD11bmAbの陽性率は同様の結果であった。抗マクロファージ抗体は(2)PLV群で増加していた. 結論:PLVの際に一般的に行われる気道吸引を,本実験系では行っていない.PLVの特徴として,Perfluorocarbonが虚脱肺胞に入りこんで肺傷害時の気道浸出液やdebrisを洗い流すという効果が言われている。Perfluorocarbonそれ自体に抗炎症効果があるならば気道浸出液を含む吸引がなくともサイトカイン,ケモカインは抑制されると考えられるが,本実験の結果から見て,一旦完成してしまった肺傷害に対してはPLVの抗炎症効果は否定的であった.むしろ,Perfluorocarbonの持つ高比重,低表面張力,多くの酸素含有という特性から,肺傷害時の虚脱した肺胞に入りこんでこれを再開存させサーファクタントの代用として働き,また洗浄効果を持つという,物理的・生理学的な特徴の面から研究を進める必要があると考えられた.
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