Research Abstract |
平成13年度は以下の研究を行った. 1.高齢無歯顎患者における咀嚼機能の回復が,QOLに及ぼす影響について検討した.被験者は,本学歯学部附属病院において全部床義歯を作製した無歯顎患者10名である.QOLの評価は教室で作成した質問紙票を用いた.これは「機能」,「会話」,「審美」,「活動・心理」の4項目27質問から構成されている.各質問ごとに「不満が全くない」を1点とし,「大変不満」を5点となるよう点数化し,点数の合計を各項目の評価点とした.咀嚼機能の回復程度は,咀嚼試験と筋電図より算出した咬合力により評価した.測定は旧義歯使用時と新義歯装着時,調整終了時,装着3ヶ月後,装着6ヶ月後の計5回行った.その結果,以下の結論を得た. 1)全ての被験者において,新義歯装着後の調整に伴い,咬合力と咀嚼効率の値は有意に高くなり,QOL質問の各項目得点は有意に小さくなった.このことから咀嚼機能の向上に伴い,QOLは向上することが客観的に示された. 2)QOL質問項目における「活動・心理」の得点は,新義歯調整終了時では旧義歯使用時と差は認められなかったが,装着6ヶ月後で得点が有意に低くなった.このことから咀嚼機能が向上し,それを長期間維持することにより,患者の活動性や心理面におけるQOLは向上するものと考えられた. 2.高齢無歯顎患者の咬みしめ時やタッピング時に発現される咬合力の大きさや作用方向が,咀嚼機能の回復やQOLに及ぼす影響について検討した.被験者は,本学歯学部附属病院において全部床義歯を作製した無歯顎患者2名で,旧義歯使用時と新義歯調整終了時に測定を行った.QOLの評価は教室で開発した質問紙票を用い,咀嚼機能の回復程度は咀嚼試験により評価した.咬合力の大きさ,作用方向の測定には教室で開発した三次元咬合力測定装置を使用した.その結果,新義歯を装着することにより咀嚼機能とQOLは向上し,咬合力も大きくなったが,咬合力の作用方向は,旧義歯使用時と新義歯調整終了時で差は認められなかった.しかし,義歯機能が向上することにより,タッピング時の顎運動経路が安定するとの報告があることから,咬合力の作用方向も義歯機能の向上に伴い,安定するのではないかと考えられる.今後,症例数を増やしてさらに検討していく予定である.
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