Research Abstract |
今年度も,昨年度に引き続き,理論と応用の2つ面から研究を行った. 理論面においては,軌道に沿った回転を表す量として有名なルエル不変量について,更に研究を進め,恒等写像とアイソトープなトーラスの同相写像で,一意エルゴード的なものは,そのルエル不変量が0になることを,松元重則氏との共同研究で証明した.これは,各点で同一方向に回転しているものは,閉軌道を持つという補題から証明される.この点で,軌道に沿った回転と力学系の定性論を結びつけることに成功したことになる.また,微分流が不変切断を持つ場合の研究も行った.微分流が不変切断を持ったとしても,一般に不変葉層構造を持つとは限らない.分岐点が存在してしまうことがあるからである.そこで,この分岐点の分類を試み,射影アノソフ流のある種の吸引的固定点では分岐しないことが証明された. 一方,応用面については,自動車交通のモデルについて研究した.いま高速道路の自動車の流れを考える.車は,前に車がいれば,追突しないように減速し,また,制限速度の範囲内であれば,加速を試みるものとする.これが複雑系になると文献にあったのを受け,この系に関するカオス制御について研究をはじめた.これは,交通渋滞の解消を表しているので,応用として最適なものと思われた.そこで,カオスであることを証明するところからはじめた.はじめに,文献どおりセルオートマトン法を採用しようとしたが,これは有限個の元からなる系のため,複雑系であることが示せなかった.次に,減速と加速時に確率をいれ,マルコフ過程による解析を試みたが,ほとんどの系でマルコフ過程が正規になり,この点でもカオスにならなかった.この点で,現段階では新しい対象の発見にはいたっていないが,解析の基礎理論を固めることはできた.
|