Research Abstract |
幼児虐待・養育拒否は今や非常に重要な社会問題となっている. 法医学の実務においては,身体的虐待(打撲傷,火傷等)の他に,精神的虐待(ストレス)の程度・期間を評価することが望ましいが,ストレスの基準となるべき指標が統一されておらず,現時点では非常に困難である.胸腺は最もストレスに鋭敏な臓器であり,胸腺実質の充実した幼児期では,特にストレスを評価する指標として有効であると考えられた.身体的虐待は軽微で,精神的虐待・養育拒否が疑われた例においても,他の臓器に比べ胸腺は著しく退縮し,精神的ストレスを鋭敏に反映すると考えられた.また,ストレスによって退縮した胸腺の細胞構成を調べたところ,胸腺皮質細胞,とりわけCD3^-CD4^+CD8^+bcl-2^-の細胞が選択的に減少していた.これは加齢による退縮とは明らかに異なり,ストレスによる病的退縮を示していると考えられた. 一方,この研究を推進する過程で,ヒト胸腺に所属する特異なリンパ節の存在を初めて見いだし,その形態学的特徴および細胞構成について解析し,生体における機能的役割を含めて考察し発表した.これらの胸腺所属のリンパ節には,頸部胸腺の先端部や,頸部胸腺と胸部胸腺の間の葉間部に存在する傍胸腺リンパ節(PTLN),胸腺の内部中央に位置する胸腺内リンパ節があり,いずれも通常の末梢型リンパ節とは明確に異なった形態学的特徴を有していて,通常のリンパ組織とは異なる機能的役割を担っているものと考えられる. また,こういったヒト生体各部に所属するリンパ性組織間での,リンパ球構成の隔たりやリンパ球の帰巣がどういったメカニズムによって制御されているのかという命題に基づき解析をおこなったところ,ヒトリンパ性組織の高内皮細静脈において,血液型関連糖鎖抗原の一種であるLe^Y抗原が特異的に発現し,かつ,その発現は末梢型リンパ節で強く,腸管型リンパ性組織で非常に弱いといった組織特異性があることを発見し報告した. 現在,引き続いて,(1)胸腺リンパ節の生体における役割,(2)高内皮細静脈に発現するLe^Y抗原の機能の両面において解析をおこなっている.
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