2000 Fiscal Year Annual Research Report
神経伝達物質のトランスポーター・レセプターに関する法医病理学的研究
Project/Area Number |
11557035
|
Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
中園 一郎 長崎大学, 医学部, 教授 (30108287)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
折原 義行 長崎大学, 医学部, 講師 (70264215)
津田 亮一 長崎大学, 医学部, 講師 (20098875)
|
Keywords | グルタミン酸 / トランスポーター / ヒト / 神経伝達物質 / 興奮性アミノ酸 |
Research Abstract |
【はじめに】興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸をシナプス間隙から除去するグルタミン酸トランスポーターのサブタイプのEAAT2について検討した。動物実験ではEAAT2の発現量が病態によって増減することが報告されている。そこで我々は、法医剖検脳におけるEAAT2の発現を検討しこの蛋白質の法医病理学的意義を明らかにする目的で本研究を行った。 【材料及び方法】用いた症例の死因はCO中毒:2例、青酸中毒:2例、トルエン中毒:1例、凍死:5例、窒息:15例(絞頚、溺水、鼻口閉塞、非定型縊頚、圧死、扼頚、誤嚥)、感電:2例、神経原性ショック:1例、局麻ショック:2例、出血性ショック:2例の外因死32例と心臓突然死:6例である。大脳皮質、基底核(線状体)、海馬回より組織片を採取し、パラフィン包埋後、連続切片を作製した。染色法はH.E.染色、及び免疫染色として抗EAAT2抗体、抗GFAP抗体を用いた。 【結果と考察】GFAPとEAAT2の発現様態:大脳皮質では、連続性かつ高密度なタイプ(4+)、連続性かつ密なタイプ(3+)、連続性かつ疎なタイプ(2+)、皮質の中央層に発現を認めないタイプ(+)、全層に殆ど発現を認めないタイプ(-)の5群に大別でき、また、トルエン中毒例では斑状の発現(P)が認められた。線状体、海馬では、発現が密なタイプ(3+)、中等度のタイプ(2+)、まばらなタイプ(+)、斑状のタイプ(P)の4群に大別できた。死因別発現様態とその法医病理学的意義:失血死と心臓突然死でのEAAT2の発現はヒトやラットの報告と近似し、正常な発現(3+)と考えられた。凍死例は高密度(4+)に発現していた。凍死では、興奮状態の時期が存在するとされており、この過程においてグルタミン酸が過量に放出され、EAAT2がup-regulateされているものと考える。絞死、溺死、鼻口閉塞、非定型縊死例等の窒息症例ではEAAT2の発現は減弱(2+、+)していた。脳が低酸素状態になるとEAAT2は逆向き輸送を行い、細胞外グルタミン酸濃度を上昇させ、神経細胞死を招くことが知られている。従って、これらの症例での発現の減弱は、神経細胞死防御の為のEAAT2のdown-regulateを反映しているものと考える。しかし、窒息死症例の中でも扼死や誤嚥例では減少傾向は認められず、窒息時の発現に関して更なる検討が必要であろう。感電例ではどの部位でも殆どEAAT2の発現を認めなかった(-)。一般的に通電作用により細胞膜は破壊されるという、この観察結果は感電によって細胞膜に存在するEAAT2が消失したものと推定する。トルエン中毒例は、斑状にEAAT2が染色されない部が混在していた。トルエン乱用者は、脳に機能的障害や形態学的変化が起こるが、この結果はトルエン乱用時にグルタミン酸の代謝機構に変化が起こり、中枢神経系の機能的・形態学変化を示唆しているものと考える。
|
Research Products
(2 results)
-
[Publications] Ikematsu et.al: "The Expression of Excitatory Amino Acid Transporter 2(EAAT2) in Forensic Autopsy Cases"Forensic Science International. (in Press).
-
[Publications] 池松和哉,津田亮一,折原義行,広瀬渉,中園一郎: "法医剖検例におけるグルタミン酸トランスポーター(EAAT2)の発現様態"日本法医学雑誌. 53巻1号. 89 (1999)