2000 Fiscal Year Annual Research Report
バルトリハリ言語哲学における「意味の世界」の分析と<能力>抽象の研究
Project/Area Number |
11610022
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
小川 英世 広島大学, 文学部, 助教授 (00169195)
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Keywords | バルトリハリ / シャクティ / 語形 / 自己指示 / P1.1.68 / ヴァーキャパディーヤ / インド言語哲学 / パーニニ文法学 |
Research Abstract |
本研究は,インド言語哲学の泰斗バルトリハリ(5世紀頃)の主著『ヴァーキャパディーヤ』に基づき,バルトリハリの<能力>による「意味の世界」の体系化をたどり,その<能力>に関わる諸問題を,パーニニ文法学の伝統という彼の思想体系化の原点から正当に解明することを目的とする. 本年度は,言語項目(linguistic unit)の自己指示(self-reference)理論にバルトリハリの<能力>論の展開(VP1.60-68)を探り,自己指示理論に基づいて定式化された文法規則P1.1.68がどのように<能力>論の視点から解釈されるべきかを検討した.以下の点が明らかとなった. 1)バルトリハリの<能力>論の特徴は,単一不可分の実在の分析手法に見いだされる.彼は,単一不可分の実在をそれの多様な因果的アスペクトから眺め,その実在から多様な因果的能力(シャクティ)を抽象する.この<能力>抽象は実在に関する諸<能力>の集合体としての把握に帰する. 2)この態度は,言語項目の指示理論にも一貫している.単一不可分の言語項目からは,対象表示者としての<能力>と表示対象としての<能力>が抽象される.その結果,言語単位には二つの相が措定される.現に発声されるものとしての相と理解せしめられるものとしての相とである.後者の相こそが<語形>とみなされるものである. 3)単一の言語項目に上記二<能力>が措定されるのは,言語項目の自己外化の特性に根拠付けられる.言語項目の自己外化とは,ある言語項目が発声されるときには,必ず,自己と異なるものとしてそれの<語形>が弁別されるということである. 4)バルトリハリはこの言語項目の自己外化理論に基づきP1.1.68を次のように解釈している. 「文法規則中の言語項目から理解される<語形>は,その言語項目が実際に使用されるときにそれから弁別されるそれの<語形>を指示する」
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[Publications] 小川英世: "語それ自身のかたちとその弁別一書評:赤松明彦著『古典インドの言語哲学 1 ブラフマンとことば』(東洋文庫637)平凡社,1998年;『古典インドの言語哲学 2 文について』(東洋文庫638)平凡社,1998年"佛教學セミナー. 69. 21-46 (1999)
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[Publications] 小川英世: "バルトリハリの<能成者>論"戸崎宏正博士古希記念論文集『インドの文化と論理』(九州大学出版会). 533-584 (2000)
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[Publications] Hideyo Ogawa: "Bhartrhari on the Non-distinction between Reality and Unreality"インド思想史研究(インド思想史学会). 12. 5-27 (2000)