1999 Fiscal Year Annual Research Report
道徳的相対主義に関する基礎研究-18世紀フランス思想史を中心に
Project/Area Number |
11610033
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
古茂田 宏 一橋大学, 社会学部, 教授 (80178376)
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Keywords | 相対主義 / 普遍主義 / エスノセントリズム / 科学主義 / 自然主義的誤謬 / ディドロ / ルソー / トドロフ |
Research Abstract |
本年度は主として準備的なテクスト収集と読解に終始した。より具体的には、ツヴェタン・トドロフの大作『我々と他者』(未邦訳)の示唆を受けながら、17世紀から18世紀にかけてのフランス思想史の読み直しに着手した。モンテーニュの懐疑主義と相対主義を受けて、その後のパスカル、ラ・ロシュフーコー、ラ・ブリュイエールらのモラリストはいずれも道徳や法や習慣や宗教の多様性・相対性に関するセンスを研ぎ澄ました。だが、そうした多様性の認知は決して己自身をも相対化しようという態度にはつながらず、むしろ「フランス古典精神」(テーヌ)という名のエスノセントリズムに帰着していくように見える。このような形での普遍主義志向は18世紀にも継承されるが、ヴォルテール、ビュフォン、そしてディドロらに顕著なように、それは一種の科学主義的言説の形に姿をかえて現われた。ここで興味深い点は、人類の多様性を説明しようという試みが、人類の単一発生説と複数発生説という生物学論争の形をとりながら、非白色人種に対するきわめて差別的な態度と結びついて展開されたことである。また、こうした偏見から自由であったディドロについても、モラール(当為)をフィジーク(人間の生物学的本性に関する科学)によって根拠づけようという科学主義的志向は顕著であって、その歴史的な意義は認められるにせよ、典型的な「自然主義的誤謬」をそこに見ないわけにはいかない。こういう思想史的背景にルソーを位置付けようとするとき、彼がいささかもこうした「科学主義」的態度にコミットせず、かつ独自の普遍性志向を示していることは明らかであり、その内実を問うことが今後の重要な課題となる。なお、上記に直接関わる研究発表はまだなされていないが、本年度に発表されたコンディヤックに関する総説(『フランス哲学思想事典』)と、ハンナ・アーレントのルソー批判に関する考察(日本倫理学会大会報告)は、間接的にこれを支えるものである。
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Research Products
(2 results)