2001 Fiscal Year Annual Research Report
道徳的相対主義に関する基礎研究―18世紀フランス思想史を中心に
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11610033
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
古茂田 宏 一橋大学, 大学院・社会学研究科, 教授 (80178376)
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Keywords | 道徳的相対主義 / 寛容 / コミュニタリアン / 啓蒙主義 / トドロフ / ローティ / サンデル / 西部邁 |
Research Abstract |
本年度は研究成果をとりまとめる最終年度であったが、18世紀フランス思想史についての研究をツヴェタン・トドロフの先行研究に導かれて続行しつつも、より現代的な論争の地平における問題機制を明らかにする作業に力を費やした。一つは、現代における「道徳の相対化」の風潮をモラルの頽廃として糾弾するスタンスから論陣を張りつつある西部邁氏の「国民の道徳」論をどのように評価するかという問題であり、私はそれをサンデルやマッキンタイアのようなコミュニタリアンと、ノージックに代表されるリバータリアンとの間の共同体論争に置き直すことをとおして解明しようと試みた。この成果の一部は、浜林正夫他編『徹底批判「国民の道徳」』(大月書店)に収められた論文として発表されている。もう一つは、日本哲学会の平成14年研究大会(九州大学)の共同討議報告者(「相対主義と普遍主義」)に指名されたことによって促されたものであり、それは既に「相対主義と寛容のプロブレマティーク-『収斂』の新たなイメージに向けて」という論文(「哲学」53号)にまとめられている。そこで私は、道徳的相対主義を正当化する様々な議論を整理し、相対主義を理論的に「立証」しようとする議論と、相対主義を実践的に望ましい価値-寛容-として「要請」する議論との間の複雑な問題機制を解明した。そして、相対主義は寛容の哲学だというクリシェを、バーナード・ウィリアムズらの議論を参照しつつ批判し、寛容をめぐる言説が一種の空回りに陥る原因は道徳的信念を自己完結的公理モデルに求める近代主義的発想そのものにあるという見通しをつけた。これに関しては、ローティのサンデル批判から多くを学んだが、そのサンデルが18世紀啓蒙思想の正嫡とみなされていることから暗示されているように、問題はこのような現代倫理学の論争の地平から、再び私の当初の研究テーマである18世紀思想史へと差し戻されようとしている。
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Research Products
(2 results)