2000 Fiscal Year Annual Research Report
前衛音楽の促進力としての民族性-20世紀初頭と1960年代の音言語をめぐって-
Project/Area Number |
11610051
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Research Institution | Aichi Prefectural University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
楢崎 洋子 愛知県立芸術大学, 音楽学部, 助教授 (50254264)
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Research Abstract |
20世紀の前衛音楽の技法であるセリアリズムと音群作法に関与した作曲家の作品は、その技法に至る経緯を異にし、それぞれの民族的所在に由来することを考察した。一つの経緯の中にとらえられているこの二つの技法は、むしろ一線を画することが確認される。音高をはじめ諸パラメーターを半音階化してそれをデジタル的に構成するセリアリズムに対し、それが飽和した状態に生じ、認識されたのが音群作法であるという歴史的パースペクティヴの中で、個々の作曲家の作曲技法の変遷がそれに与するのはドイツ語圏の作曲家に限られる。セリアリズムの飽和から音群作法への変遷を必然として理論的に述べたリゲティの音群作法は、セリエルな操作ではなく半音の漸次的な堆積から得られている。ペンデレツキ、グレツキの音群作法は、半音が堆積するプロセスよりも、半音が堆積した響きが創作の対象となる。セリアリズムを実用することなく示唆するにとどまったメシアンは、半音階化した音を構造上の単位としてでなく、濃やかな音の身ぶりを託しうる方法として用いる。ベリオ、ノーノは、半音階化した音の分布に対し、構造よりも、身ぶりの濃やかさよりも、音変化の飛躍を関心事としている。ファニホウにおける半音階化した諸パラメーターの総合的な使用は、音変化における演奏者の指向性を厳格に制御することを導く。武満における、半音と、それが堆積した状態とのベクトルをパターンとする作法は、これらのヨーロッパの作曲家たちの作法との相対的な関係の中に位置付けられる。
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