2001 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀中葉のニューヨーク近代美術館の活動とその美学的意義
Project/Area Number |
11610053
|
Research Institution | Tama Art University |
Principal Investigator |
村山 康男 多摩美術大学, 美術学部・芸術学科, 教授 (40190938)
|
Keywords | ドロシー・ミラー / フランク・オハラ / 抽象表現主義 / アンフォルメル / 実存主義 / アクション・ペインティング / 不条理 / デュビュッフェ |
Research Abstract |
本年度は昨年度に引き続き、ドロシー・ミラーの活動とフランク・オハラの活動が交錯する1958年から1959年にかけての欧米での美術の状況を主題的に扱った。とりわけ両者が共同で組織したヨーロッパ巡回展である《新しいアメリカ絵画》展の欧州における反響とその美術史上、美学上の意義の解明に焦点を当てた。この展覧会は抽象表現主義に代表される現代アメリカ作家17人の作品81点で構成されており、1958年4月からバーゼル、ミラノ、マドリッド、ベルリン、アムステルダム、ブリュッセル、パリ、ロンドンと巡回し、1959年3月アメリカに戻り、ニューヨーク近代美術館で最後の展覧会を行った。この展覧会の背景となった欧州におけるアンフォルメルとアメリカにおける抽象表現主義の運動は、美学的に見ても、文化史的に見ても20世紀美術の転換点となる重要な現象であり、この二つの美術潮流の帰趨をつぶさに跡づけることは、本研究に於いても最重要の位置を占める。アンフォルメルはパリを中心として展開した実存的な抽象とも言え、フォートリエ、デュビュッフェ、ヴォルスらの作家に代表されるが、それは、幾何学的抽象とは対照的に不定形の厚塗りのマチェールや画家の描く身振りの筆致に重点を置く抽象であり、戦後アメリカの「抽象表現主義」或いは「アクション・ペインティング」と同時代的に呼応している。第二次世界大戦の極限状況において物質にまでおとしめられた現代人が、不条理な現実を深く内在化することを通して、人間の尊厳とは何かを問いかけるという姿勢が両者には共通しており、それは戦後思想の根幹に関わる問題であった。今年度の研究によって得た新しい知見を加え、新たな構成に組み替えた論文「瀧口修造とフランク・オハラ」を多摩美術大学研究紀要に発表するので、それを研究成果の一部として提出する。
|
Research Products
(2 results)