1999 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11610065
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Research Institution | Tokyo National Museum |
Principal Investigator |
金子 啓明 東京国立博物館, 資料部・情報調査研究室, 室長 (90110098)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岩佐 光晴 東京国立博物館, 学芸部・美術課・彫刻室, 室長 (10151713)
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Keywords | 木彫像 / 一木彫 / カヤ / 白檀の代用材 / 栢 / 広葉樹 / 針葉樹 / 用材観 |
Research Abstract |
今年度はまず、この科研以前に調査した当該作品について資料整理を行い本研究の基礎固めとした。特に、調査時に採集していながら分析していなかったサンプルについては、森林総合研究所の協力を得て分析を進めた。これまで、唐招提寺や大安寺の木彫像、神護寺や元興寺の薬師如来像という8・9世紀を代表する一木彫像についは用材の樹種がカヤと判明していたが、今回の分析によってその他の当該期の重要な作例の多くも用材としてカヤが使用されていることがわかった。これは従来われわれが提唱した説を補足する結果といえる。つまり、われわれが以前論文の中で取り上げた作例は上記のように限られたものであったため、当該期の一木彫像の用材としてカヤが使用されていたことを一般化することに疑問をもつ向きもあったが、今回の分析によって、当時木彫像を制作する際、白檀の代用材としての「栢」を使用する思想が重要な意味をもっていたこと、この「栢」が日本ではカヤに当てられていたことなどをより明確にできたのではないかと思われる。この成果については論文として公表するため現在準備中である。 また今年度は、東北地方と九州地方を中心に、関連作品の調査を実施したが、特に、当該期一木彫の大作である勝常寺(福島県)薬師三尊像、道成寺(和歌山県)千手観音及び両脇侍像、清涼寺(京都府)阿弥陀三尊像について入念な調査を行い、勝常寺の薬師如来像、道成寺千手観音立像についてはサンプル収集を行うことができた。分析の結果、勝常寺の薬師如来像についてはその用材が広葉樹材であることがわかり、針葉樹であるカヤを選択する認識とは異なる用材観のもとに造立されたと考えられ、その思想的な背景や地方造像のあり方について、あらたな課題が設定されるに至った。
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