Research Abstract |
本年度は,自閉症児および自閉症を持たない精神遅滞児各15名を対象に,心の理論,能動・受動文理解,およびメタ言語的知識の発達を検討した。 心の理論は,標準的誤信念課題である予期せぬ場所の置き換え検査により,移動された物の場所に関する登場人物の誤った信念を推測してもらった。文理解は,態(能動・受動),文意のバイアス(可逆・可能・不可能),および可能文と不可能文における文意のもっともらしさの程度(高・低)の3要因の組み合わせからなる12条件を操作した。各2文ずつ計24文を提示して,被験者に玩具で演じてもらった。また,メタ言語的能力の検査は,語音の異同を問うしりとり,無意味綴りに置き換えられた名詞の指示内容の正誤を問う語の置き換え,主語と目的語に統く文末の用言が適切か否かを問う文末語の訂正の3つの下位検査を行った。 実験の結果,誤信念の理解は,言語精神年齢が約5歳の精神遅滞児の遂行が健常な5歳児の遂行とほぼ一致するのに対して,自閉症児では,平均言語精神年齢が8歳を越えるにもかかわらず,誤信念理解に健常な3,4歳と同様な困難を示すことが明らかになった。また文理解では,先行研究の知見に反して,自閉症児は健常な3,4歳児同様,特に文意のもっともらしさの程度が高い場合に可能文と不可能文の遂行差が顕著に現れた。これに対し精神遅滞児では,全体的な遂行は健常な5歳児と類似するものの,文意のもっともらしさの程度に影響を受けることはなかった。したがって,文理解の際に文意のもっともらしさの程度を利用できるようになるには,少なくとも8歳以上の言語精神年齢が必要であることが示された。さらにメタ言語的知識では,3つの下位検査を通じて,精神遅滞児は健常な5歳児程度の遂行を示すのに対して,自閉症児では特定の下位検査の通過人数に偏った遅滞はみられないものの,全体的なメタ言語知識の獲得が遅滞していることが明らかになった。
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