1999 Fiscal Year Annual Research Report
ワーキングメモリと日本語の読みに関する認知神経心理学的研究
Project/Area Number |
11610079
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Research Institution | Osaka University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
苧阪 満里子 大阪外国語大学, 外国語学部, 助教授 (70144300)
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Keywords | ワーキングメモリ / 日本語 / 読み / リーディングスパンテスト |
Research Abstract |
ワーキングメモリは、一時的な情報の保持機構であり同時に保持内容を統合する過程である。本研究では、ワーキングメモリを情報の処理と保持の並列処理の視点からとらえ、特に日本語の読みの過程でのワーキングメモリのはたらきを中心に検討を試みた。というのは、読みは、処理と保持の並列処理が処理容量を競合しつつ相互に促進して統合へと向かう特徴をもっているためであり、また、日本語の読みは、構文構造、および表記についても独自の特徴を持つためである。 11年度では、日本語の読みに基づくワーキングメモリの個人差を測定するリーディングスパンテスト(RST)を基本として、日本語の読みにおける情報処理の特徴を探索した。日本語のRSTは英語のRSTと測定内容は共通する一方で、日本語の構文構造から、日本語版に独自の特徴が推察される。ここでは、文の焦点の視点から検討をおこなった。というのは、構文構造の特徴から、日本語の文末単語は、英文の文末単語のように、文末焦点となることは少ないと考えられるためである。 そこで、実験的にRSTの保待するべき単語(ターゲット語)を焦点単語と非焦点単語とした場合について、RSTの成績を比較した。その結果、焦点単語の場合には、非焦点単語の場合に比べて、RSTの成績が有意に高くなる結果を得た。また、報告すべき単語を、ターゲット語以外の単語を報告した誤り(侵入反応)は、非焦点条件で有意に増加し、そのほとんどが焦点単語であるという結果を得た。 この結果は、RSTの得点には文理解が基礎となることを確認するものである。また、日本語の場合には、文中の単語の位置にかかわりなく焦点が生起しうることを示唆するものである。したがって、日本語の読みにおいては、文理解の基礎となる焦点が絶えず生起する可能性があり、文脈の形成、時間的統合においてワーキングメモリの柔軟の対処の仕方が要求されるものと考えられた。
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