Research Abstract |
情動の発現には,脳の右半球が優位に関わるとする説と,前頭部脳の偏側性を重要視する説がある.本年度の研究では,情動誘発刺激に対する脳半球の偏側性と心臓血管系反応の関連を検討した.常用手が右手の学生14名(平均23.9±1.8歳)を被験者とした.脳波(EEG)は,F3,F4,C3,C4,P3,P4より両耳垂結合を基準に導出した.心電図と平均血圧(BP)も同時記録した.実験には10minに編集した3種類の映像刺激を用いた.それらは,正の情動を喚起するPositive刺激,負の情動を喚起するNegative刺激,特に情動を喚起しないControl刺激とした.各刺激の呈示後に,怒り,恐怖,幸福,嫌悪,悲しみ,驚き,興味,楽しみ,満足,不安の各情動をvisual analogue scaleで評定させた.自律系の指標は,安静時の記録に対する30s毎の平均心拍(HR)変化量と平均BP変化量として算出した.EEGは各映像刺激最後の2min間を高速フーリエ変換して,α帯域(8-13Hz)のパワ値を求め,左右差を比較した.この区間を選択した理由は,質問紙,HRおよびBPの発現態度から,当該区間に明白な標的情動の喚起が認められたことによる.Positive刺激条件におけるHRとBPの様相は,基線よりも低下した推移を示した.Negative刺激条件では,最も不快と評定された場面でHRとBPは急峻に上昇し,同時に右半球頭頂部(P4)の賦活が認められた.以上の結果から,不快な映像刺激は覚醒水準を上昇させ,同時に生じた末梢血管の抵抗増加が,HRとBPの上昇をもたらし,かつ脳半球の偏側性が関与していると考察した.
|