Research Abstract |
本研究は,音声言語を主なる対象としてきた認知・言語心理学の分野で,新たに手話という音声を伴わない言語を対象とし,その記述過程を実証的に解明しようとするものである。 平成11年度は,作動記憶理論を枠組みとし,手話言語の記憶過程における音韻的短期記憶の機能を明らかにするため,二重課題法を用いた実験研究を行った。従来の音声言語を対象とした研究では,第1言語と第2言語の単語の対連合学習において,音韻的短期記憶が重要な役割を果たすとされている(e.g.,Papagno et al.,1991)。音韻的短期記憶は,第2言語としての手話単語の符号化でも重要な役割を果たすのであろうか。本実験では,二重課題としての構音抑制の有・無と,松見(2000)に基づく手話単語のイメージ性の高・低,さらに学習試行数3の3要因を,いずれも被験者内変数として操作し,この問題を検討した。被験者は,手話の学習経験がない大学生と大学院生で,ビデオ画面に日本語単語と一緒に提示される手話表現を,実際に手を動かして符号化し,その後,刺激語として提示される日本語単語に対して,手話で動作表現するよう求められた。実験の結果,試行数の増加に伴う再生成績の上昇パターンは,構音抑制の有・無にかかわらず,手話単語のイメージ性の高・低によって異なることがわかった。また,各試行におけるイメージ性の高・低による成績差の生じ方は,構音抑制の有り・無し条件間で類似していることもわかった。構音抑制を行って内的な音声リハーサルを妨害しても,手話単語の符号化が難しくなるとはいえず,音韻的短期記憶が,手話言語の記憶過程において,音声言語ほどには重要な役割を果たしていない可能性が示された。なお本実験の結果については,日本心理学会第64回大会(平成12年11月:国立京都国際会館)で口頭発表する予定である。
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