2002 Fiscal Year Annual Research Report
俄(にわか)研究-近畿・北陸・東海・九州地方の重点調査を中心に-
Project/Area Number |
11610326
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Research Institution | Kochi Women's University |
Principal Investigator |
佐藤 恵里 高知女子大学, 文化学部, 教授 (80128793)
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Keywords | 俄 / 造りもの / 風流 |
Research Abstract |
14年度の研究実施計画に、(1)補足調査、(2)ホームページの充実、(3)研究成果報告書の作成・頒布をあげた。(2)(3)は現在完成を急いでいるので、新たな成果として、(1)の概要を記す。 (1)熊本は、若い世代に今も「肥後俄」の語が定着しているように俄が盛んな土地柄であった。市内にこれを標榜する「バッテン劇団」があり、市周辺には、玉名市伊倉のような笑劇に限らず、多様な形態が残る。蘇陽町「火伏せ地蔵祭り」矢部町「八朔祭り」宇土市「地蔵祭り」を調査した。いずれも見立ての造り物がメインで、高森町「風鎮祭(山引き祭り)」を加えると、祭礼文化の観点からは日向街道一帯が一つのサークルを成していることになる。蘇陽町では、トーシモンといって造り物を引き回す他に、ヨドマイリには近年まで俄をやっていた。この祭りはまた「俄」と総称されている。地蔵堂保管の「地蔵祭新若記録」は幕末からの「俄」記録で貴重であり、後日資料の紹介とともにこうした「俄」の考察を稿にしたく思っている。他に宇土市網田や芦北町塩浸でも雨乞い・祝い事にかつて俄が行われていたのを知る。「俄を踊る」という。網田では「俄祭り」「俄踊り」ともいった。芦北町才木に残る「雷狂言」にも雨乞いの俄の古型を認め得た。 (2)長崎では、飯盛町「田結浮立」、岐宿町厳立神社祭礼における俄の事例をあらたに得た。「田結浮立」の俄は里名・川下名地区の浮立で、蛇踊り・きつね踊りを指す。佐賀県富士町の「天衝舞浮立」の俄と比べ、笑い・落ちを伴わない。岐宿町のは、有川町の俄と同格ながら、笑劇より踊りが主体となっている。ここも俄は「踊る」のである。 以上は芸能史に照らせば風流の系に立つ。佐賀・長崎・熊本には豊かな浮立芸が現存し、なかには俄といっていないが俄的な様態が認められるものも多々ある。通説では俄は大阪で発生したというが、再考の余地を感じる。
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