2001 Fiscal Year Annual Research Report
中世末・近世初頭における仏教・キリスト教・儒教三者の関連について
Project/Area Number |
11610335
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
安野 眞幸 弘前大学, 教育学部, 教授 (30110646)
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Keywords | 音読み / 訓読み / 和魂漢才 / 天台本覚思想 / イデオロギー暴露 / キリシタン / 徂徠学 / 国学 |
Research Abstract |
日本人は漢字に対して「音読み」「訓読み」と云う二通りの読み方をしてきた。これは日本が、文化的には漢字文化圏の影響下にありながら、他方、政治的にはその外側に立っていたことによっている。それ故、漢字・漢文で書かれた高度に理論的な思想に対しても、「和魂漢才」という二重の対応をしてきた。「漢才」とは中華の民と同様、書かれた漢文を正確に理解する能力のことである。これに対して「和魂」とは、理論信仰に陥ることなく、漢文で書かれたものの真意を大和言葉で要約し、その場その場に適した正しい対応を行うことを意味していた。外来思想を大和言葉で要約するこのような「和魂」の下で、仏教哲学の理解が進むと、平安期の「天台本覚思想」となった"全ての人には仏性が備わっている"とは、一面では確かに仏教哲学の正しい要約と言えるが、同時にここには"戒律"とか"修行"の排除、それ故宗教としての仏教の自己否定につながる面があったのである。 近世初頭、キリシタンは神国日本の仏教を破壊する「邪教」と断じられた。「仮名性理」「本佐録」等々では現実の社会秩序維持の観点から来世信仰を主張する仏教は批判の対象となった。中葉の徂徠学・国学では朱子学・漢学に対する批判が行なわれた。「和魂」は本来、政治的判断力を重視していたが、近世に至り、現実の政治秩序を維持する立場に立つ政治思想、日本ナショナリズムにまで高まり、丸山真男の云う「イデオロギー暴露」として、外来思想は一言で要約され、批判されていったのである。他方「天台本覚思想」の中にあった「草木国土悉皆成仏」の自然観は、朱子学の「性理学」や西欧の合理主義、あるいはスコラ哲学・科学革命の持つ自然観と親和関係にあった。これがキリスト教排除の裏で、西欧の医学・天文学等の流入・定着をもたらし、近世社会に蘭学・洋学を定着させた原因だと考えられる。近世に於ける「和魂」や天台本覚思想展開の解明が今後の私の課題である。
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Research Products
(1 results)