2000 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11610389
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Research Institution | Toyohashi University of Technology |
Principal Investigator |
相京 邦宏 豊橋技術科学大学, 工学部, 助教授 (70262970)
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Keywords | ガリア / ゲルマーニア / 母神信仰 / ケルト / ローマ / エピセット |
Research Abstract |
こうして、ガリア、ゲルマーニア地域のMatronae信仰を一覧すると、その明らかな地域性と共に、多種多様な要素の複雑な絡み合いの有様が良く分かる。神名の言語的分析からだけでは推測し難いケルトとの関係が神名の分布から明らかになるし、一方そのガリアにおいては、土着の要素を強く保ちながら、奉納者の人名には既にローマ化の兆しが仄見える。又、わずか三例とは言え、その地のMatronae碑文にはいずれも「十分の一」の奉納が記されているのに、他の地域の碑文には類例は見出されない。信仰形態のこうした違いも又両地域で本来別個の母神が信仰されていたことの傍証となるであろう。他方、-e(i)his語尾に見られるようにケルト・ゲルマン・ラテン語の諸要素がお互いに微妙な影響を及ぼし合った可能性もある。又、ライン地方に目を向ければ、同地のエピセットの多様性に注目すべきであろう。同地で見られるエピセットの大半は、ノイマンが主張するように、確かに、地域・地点名を指すのかもしれない。けれども、その中にあって、同女神の属性を表すと思しきエピセットの多様性こそ、同女神が正に「アーキタイプ」的な存在であったことの何よりの証左である。そしてそれはこの神性が明確な信仰体系を持たず、又当時の神界と何の関わりも持たなかったことによっても裏づけられる。「アーキタイプ」的な同女神は本来、何か自然のnumen乃至その擬人化だったのであろう。それがケルト乃至ローマとの接触の中で女神としての姿を与えられ、一種の民間信仰に発展した。かくてローマを仲立ちとして、ケルトとゲルマンの母神は融合した。当該信仰の形成には、ケルト・ゲルマン・ラテンのそれぞれがそれぞれの役割を果たしたのである。
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