2001 Fiscal Year Annual Research Report
第三帝国期におけるドイツ・ユダヤ人のアイデンティティに関する研究
Project/Area Number |
11610398
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Research Institution | HIROSHIMA UNIVERSITY |
Principal Investigator |
長田 浩彰 広島大学, 総合科学部, 助教授 (40228028)
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Keywords | 第三帝国 / ドイツ・ユダヤ人 / アイデンティティ / 「アーリア人」妻 / 混合婚 / Rosenstrasse抗議 / ユダヤ人前線兵士全国同盟 / レーベンシュタイン,レオ |
Research Abstract |
本年度は以下の2点で研究を進めた。まず、1,「ユダヤ人」として迫害された元ユダヤ教徒のさらなる動向を把握すること。2,初年度に分析した「先遣隊」に近い方向性を持ち、ワイマル期に成立した第一次大戦従軍兵士の団体である「ユダヤ人前線兵士全国同盟」が、第三帝国下で展開した言説を分析することである。 1に関しては、第三帝国下で唯一、ユダヤ人の側から体制に対して引き起こされた抗議行動であるRosenstrasse(バラ通り)抗議の分析である。これは、元ユダヤ教徒と結婚していた「アーリア人」妻たちが、43年2月末のユダヤ人一斉検挙で連れ去られた夫たちの釈放を求めて収容施設の前に集まり、体制側の譲歩を引き出した事件だった。先行諸研究を比較して言えることは、この抗議行動が、夫たちの収容所送りを阻止する際の必要条件であっても、十分条件ではなかったことだ。つまり、夫たちは、その他の何ら優遇されないユダヤ人とは別の施設に集められており、必ずしも即座の絶滅収容所送りの対象ではなかったような形跡があるからだ。 2に関しては、研究者ドゥンカーの博士論文に依拠しながら、彼の分析が手薄な35年以降の「前線兵士同盟」の活動路線に注目し、その機関誌等を分析した。35年9月のニュルンベルク法以降、ユダヤ人は、その愛国心如何に関わらず一律扱いで、ドイツ社会から排除するという方針が明確化する。ドゥンカーは、ここで「前線兵士同盟」がシオニストの活動路線に折れていくと評価したが、私は別の分析結果に至った。確かに、国外移住推進路線をこの組織も取らざるを得なくなるが、それでもこの組織は、ドイツ人としてパレスチナ以外の地へ集団入植する、という路線の推進にあたった。あくまで「前線兵士同盟」は、このようにドイツ・ユダヤ人の「ドイツ人としてのアイデンティティ」の保持に極力努めようとしていたのだった。
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Research Products
(1 results)