1999 Fiscal Year Annual Research Report
叙任権闘争交渉における教皇領政策についての基礎的研究
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11610400
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Research Institution | Hachinohe University |
Principal Investigator |
前山 総一郎 八戸大学, 商学部, 助教授 (80229327)
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Keywords | 教皇領 / 叙任権闘争 / レガリア / 教会 / 国家 / 主権 / 教皇世襲領 / 公共性 |
Research Abstract |
本年度の研究は、叙任権闘争の諸交渉の実際において「教皇世襲領」"patrimonium"の扱いがどのような展開を経たのかを具体的に明らかにする趣旨において、実施計画にそっておこなわれた。本年度は、叙任権闘争交渉の前期、すなわち教皇パスカリス2世期[1099-1118年]にあって、ラテラノ(1110)等4つの教会会議教令を解析視角の前提としつつ、具体的にはグァスタラ(1106)、シャーロン(1107)、ローマ(1109)、ストゥリ(1111)、ポンテマンモロ(1111)の5件の交渉を調査対象とした。検討結果によれば、まず、グァスタラ交渉(1106)からローマ交渉(1109)にあっては、指輪と杖による叙任(investitura)、司教候補者の託身、「顕職者」による同意、といった比較的多岐にわたる問題が拡散的に提起されるが、しばしばローマ教会と帝国の双方の議論がかみ合わず、議題の提起とすりあわせをおこなったという意味で最初期の交渉という性格が強いことが理解された。 こうした交渉が実質的・本格的になったのはストゥリ交渉(1111)であった。ここでは、(1)皇帝による聖職者叙任権の放棄、(2)レガリアの規定、(3)ローマ教会によるレガリアの皇帝への返還、(4)教会の「奉献財」と「相続財」、(5)レガリア返却後の利用許可、(6)教皇世襲領返還、という計6つの問題がいわば初めて双方で合意された議題として審議されるに至ったことが判明した。ここにおいて確認されたことは、第一に叙任権交渉において交渉開始後5年目のストゥリ交渉において実質的審議をおこなう本格的交渉がなされたことである。そして見落とされてきた点であるが、第二に「教皇世襲領」が帝国からローマ教会への譲渡という問題として初めて議題に上ったことである。つまり叙任権闘争交渉の初期においては、単に叙任権問題・託身問題のみが主要議題であったのではなく、「教皇世襲領」が交渉初期の段階ですでに主要なイッシューであったことが確認された。
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