2000 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11610403
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
井上 茂子 上智大学, 文学部, 助教授 (00184747)
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Keywords | ドイツ / ナチズム / 社会国家 / 労働者政策 / 福祉政策 |
Research Abstract |
平成12年度の史料収集は、労働者政策に関して「ナチ期労働省省報」(ドイツ語マイクロフィルム版)を入手し、福祉政策に関してナチ国民福祉団(NSV)と民間福祉団体の史料をドイツの図書館・文書館で収集した。史料収集は来年度も継続する。 今年度得られた知見は、特に女性労働に注目すると浮き彫りになる、狭義の労働政策の外側に位置し、ドイツ国民の国家統合に多大の影響を及ぼした「ジェンダー政策」「人口政策」「大戦期の外国人労働者政策」の影響力の大きさである。すなわち、ナチ時代の「男女分離」政策は、ナチ特有のものではなく、ドイツに根強い男女双極的で家族中心的な社会概念に地盤があるが、ナチ期には人口政策上の考慮も付け加わって制度化され、男女分離的な労働政策が規範となった。この規範が現実の労働市場の現実に対処できなくなると、ナチ政権はいくつかの解決策を考案した。ひとつは外国人労働者を大量導入して労働力不足を補う方策である。これによって、ドイツ人内部における人口政策やジェンダー政策を変えずに済み、それが体制安定化の機能を果たした。もうひとつは、大量の外国人労働者を見込めなくなる戦争末期および戦後構想として、「女性に本質に合った仕事」を拡大解釈して現実に対処する方策である。 前者の方策に関しては、「ドイツ第三帝国とヨーロッパ」(ハム編『EUとヨーロッパ中世』)および「ジェンダー」(矢野・ファウスト編『ドイツ社会史』)に、その成果の一部をまとめた(両者とも2001年夏出版予定)。また、後者の方策に関しては、比較社会史研究会にて2000年11月3日および2001年3月11日に口頭報告し、この研究会の論文集(『ナチズムの中の20世紀』柏書房、2001年冬出版予定)にむけて現在執筆中である。
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