1999 Fiscal Year Annual Research Report
異世界体験を通してみた近代文学者の身体感覚の総合的研究
Project/Area Number |
11610451
|
Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
石崎 等 立教大学, 文学部, 教授 (80141167)
|
Keywords | 近代文学者の異郷体験 / 日中戦争 / 身体感覚 / 上海 / 天津 / 他者認識 / 中国人観 |
Research Abstract |
本年度は、近代文学者の異郷体験と身体感覚について二つの面から分析した。一つは、1940年前後における中国の二つの租界都市上海・天津を描いた文学テクスト(多田裕計『新世界』、森三千代『あけぼの街』)を中心にした研究、もう一つは、他者認識の尺度として、文学者が苦力の存在をどのように見、その声をどのように聴いたか、というテーマの研究である。前者の文学テクストは、ニ作品とも未調査であり、研究がなされてはこなかった。また後者は、今後とも旅行記などを含め総合的な調査が進められるべきだが、一応の見取り図が出来、まとめることができた。そのための資料として、従来のカタログ化された中国人観を相対化するために、同時代に翻訳紹介されたアリス・ホバートの『揚子江』やS・モームの『支那の屏風』を比較し援用した。日本の文学テクストにはない批評性があるからである。今年度扱った両テーマとも、文学者の「身体」の位置という問題系に収斂している。多田の小説からは、大東亜共栄圏という理想を信奉する余り、異郷での身体感覚が浮遊しており、それが帝国日本の侵略者として、権力的な視線を獲得してしまうという構造が引き出せた。森の小説は、中国民衆の不可解な他者性に対する身体の拒絶感覚が克服され、日中両国の暗澹とした現実に目覚める女主人公のナイーブな感性が描きだされており、同時代の文学テクストの中でも高い評価を与えるべきだと位置付けた。以上の成果は、三篇の論文「ユニフォームを着た上海-多田裕計『新世界』が孕んでいるもの-」(既発表)「天津 曙街にて」(未発表)「苦力の声」(未定稿)にまとめられている。
|
Research Products
(1 results)