1999 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11610476
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
原 英一 東北大学, 文学部, 教授 (40106745)
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Keywords | 王政復古 / 女性の悲劇 / ジャンルの転換 / 演劇 / デフォー / 西欧市民社会 / 犯罪 / センチメンタリズム |
Research Abstract |
王政復古期の演劇テクストにおいては,女性の役割は基本的に男性の支配の下で決定されている。特に1660年から1690年頃までは,男性中心のリベルタン的文化が絶対的優位を保っており,女性は男性の性的欲望に奉仕する存在と見なされていたのであり,批評的にもそのようなものとして第一に捉えられる必要がある。しかしながら,本研究は,男性文化の下位に位置する女性が,しだいに上層の男性文化を浸食し,新しいジャンルである小説への転換を導いたのではないかとの仮説ないし推測に基づいて,多数のテクストを研究しようとするものである。今年度の研究はまだ資料整理の段階にあるとはいえ,この仮説がある程度立証されるに至った。特に注目すべきは女性の備える本質的な反社会性・反文明性とも言うべきものが,その文化的機能の本質的部分に存在することである。アフラ・ベインなどの描く娼婦的女性は,もともとそのような側面を有しているのであるが,エサレッジ,ウイチャリー,ゴングリーブ等の喜劇に登場する上流階級の女性たちも,男性の放蕩者的主人公をたくみに自らの力の中に取り込むことによって,男性優位の文化の基底を切り崩している。一方,18世紀初頭からの演劇の全体的変容,すなわちセンチメンタリズムへの移行は,市民階級の台頭を背景とすることは従来の見方の通りであるが,特に女性の自我意識の向上と切り離すことができない。女性が益々その規制力を強化する市民社会のシステムと衝突したとき,そこには悲劇の可能性が生まれる。ニコラス・ロウの「女の悲劇」は,そのような「女性」と「西欧近代市民社会」との衝突・葛藤を背景として生まれている。「犯罪者」に転落する女性は,デフォーやリチャードソンが描くヒロインたちと基本的な共通性を備えている。ジャンルの転換に「女性」と「犯罪」がキーとなることが本研究により一層明らかになりつつある。
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Research Products
(1 results)