2000 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11610480
|
Research Institution | University of Tsukada |
Principal Investigator |
竹谷 悦子 筑波大学, 現代語・現代文化学系, 助教授 (60245933)
|
Keywords | 女性文学 / オリエンタリズム / マリア・カミンズ |
Research Abstract |
本研究は、従来不当に等閑視されてきたアメリカの女性文学と合衆国の植民地主義との関わりを明らかにするものであり、今年度は十九世紀中葉のアメリカの女性文学のなかの中近東およびアラブ・イスラム世界の表象を研究した。とりわけ、ベスト・セラー『点灯夫』(1854年)の作者であり、ナサニエル・ホーソーンによって「忌々しい、物書きする女ども」の筆頭にあげられたマリア・スザンナ・カミンズのロマンス『エル・フレイディス』(1860年)に見られるオリエント表象を研究対象とした。資料収集は、カミンズの書簡やパスポート等を所蔵しているフィリップス図書館やワシントンの議会図書館で行った。この研究の結果、カミンズの作品とオリエントの関わりは、エドワード・サイードの『オリエンタリズム』にある見取り図とは、微妙にずれていることが判明した。とりわけ重要な変更点として、1)オリエントが、アラブ女性の身体ではなく、ギリシャ女性の白い身体によって表象されている結果、オリエンタリズムを形成する主体・規範であるはずの特権化された「白人」が、人種のカテゴリーとして相対化されていること、2)フランス人、イギリス人、アメリカ人男性の連帯が、イスラムのハーレムのなかで展開される女性たちの連帯と対比されることにより、オリエンタリズムを支える言説が、西洋的な結婚制度に体現される強制的異性愛と不可分に結びついていることを露呈していること、が挙げられる。今年度の研究により、アメリカの女性文学とイスラム・オリエントとの関わりは、さらなる研究の余地があることが明らかになった一方で、女性文学は合衆国の拡張主義イデオロギーである「明白なる運命」に回収されることのなかった、隠れた植民地主義の歴史を顕在化するという、申請者の仮説を十分に裏付けることができた。
|