2000 Fiscal Year Annual Research Report
イギリスのルネサンス期の作家の主体構成のプロセスの解明
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11610492
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
高田 茂樹 金沢大学, 文学部, 助教授 (40135968)
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Keywords | ルネサンス / 近代初期 / シェイクスピア / 『ジョン王』 / 主体構成 / 新歴史主義 |
Research Abstract |
二年間の課題研究の最終年度に当たる本年度は、基本的には、昨年度に引き続いて、ルネサンス期イギリスの作家たちがその創作を通して自己の主体を確立してゆく過程の解明に努めた。その際に人が蒙る社会的、文化的な要因を多角的に探る一方で、それらが主体の中でどのように干渉しあって、その構成に寄与してゆくかということの究明に意を注いだ。 昨年度は、とりわけ、当時の宗教改革の動向と文芸や演劇の展開とがどのように関連しているかを考察して、それを単に外的な批判や規制といった観点からではなく、宗教上の対立しあう教義や考え方などが、他の要因とも絡み合って、人々の心性を感化し、文芸や演劇の創作や上演の内容を様々に規定していく錯綜した経過を中心に研究した。 今年度は、そういった心性の問題を、変容しつつあった家庭像や個人と世界との関係なども交えて、多面的に考察した。具体的には、シェイクスピアの『ジョン王』を中心に据えて、そのモデルとも考えられる作者不詳の『ジョン王の多難な治世』との比較等を通して、1590年代半ばのシェイクスピアが置かれていた状況と彼が直面した課題を探った。まず、彼が成長期に経験したと推測される家庭内の人間関係の歪みや一家の宗派の問題などを取り上げ、それらが彼の精神の発達をどう方向づけ、そこにどういった困難さを孕ませることになったかを跡づけた。そして、そういった課題にシェイクスピアがこの『ジョン王』の創作を通してどう向かい合い、社会的な自己を確立していくかを追究し、作家の伝記的研究と作品の内在批評の組み合わせに一つの新しいモデルを提起した。この成果は、今秋に松柏社から刊行される論集『エリザベス朝演劇と結婚のディスコース』に「家族の肖像-シェイクスピア『ジョン王』論-」(仮題)として発表することがすでに決まっている。
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