2000 Fiscal Year Annual Research Report
R.W.エマソンの「超越主義的」思想の成長、展開と19世紀アメリカ社会
Project/Area Number |
11610513
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Research Institution | Nagano Prefectural College |
Principal Investigator |
高梨 良夫 長野県短期大学, 文学科, 教授 (50163225)
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Keywords | エマソン / 超越主義 / ロマン主義 / 自然 / 朱子学 / 陽明学 / 朱子 / 王陽明 |
Research Abstract |
まず第一に、『エッセイ集・第一集』を出版した1841年ごろから、『エッセイ集・第二集』を出版した1844年頃までの期間は、エマソンの思想が大きな転換期にあったことを考察した。彼は1836年には『自然』を出版、1837年には「アメリカの学者」を講演、1838年には「神学部講演」を試み、独自の超越主義的自然観、人間観、宗教観を大胆に表明していた。『エッセイ集・第一集』は、成熟した彼の「自己」中心的超越主義思想を良く示している。しかし3年後の『エッセイ集・第二集』は、超越主義的エマソンとは趣を異にした、現実的で、プラグマティックなエマソン、またアメリカ社会の現実に対しても視野を広げ始めたエマソンの姿を示している。それ故この時期は、彼にとっては、超越主義の限界を意識し、そこから脱却しようとするようになった、自らの思想の修正と再構築の時期として位置つけることが出来ることを、エッセイの内容などに基づいて考察した。 第二に、エマソンの思想と東洋思想との類似関係についての研究を進めた。まず明治から大正時代にかけて、エマソンが日本で愛読された理由の一つが、彼の思想に、日本人の精神生活に強い影響を及ぼしてきた朱子学、陽明学の教義との共通点があったためではないかという疑問から出発した。この時期の自然主義の小説家、詩人岩野泡鳴は、エマソンの超越主義思想と、「心即理」、「致良知」を唱えた、王陽明の思想との類似を指摘している。確かに青年時代のエマソンの思想は陽明学と共通点が見られるが、中期から後期のエマソンは、青年時代のロマン主義的思想を克服しており、むしろ「性即理」、「格物致知」を唱えた、宋学の大成者朱子の思想に接近していることを明確にした。具体的にはエマソンの「神性」と朱子の「天」、「大霊」と「太極」、「学者」と「聖人」、「照応」と「格物致知」、「道徳感覚」と「誠」、「処世」と「道」などについて考察した。
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[Publications] 高梨良夫: "ホーソーンの旧牧師館時代とエマソン-エマソン思想の変化をめぐる考察"日本ナサニエル・ホーソーン協会誌『フォーラム』. 第6号. 55-71 (2000)
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[Publications] 高梨良夫: ""Emerson and Neo-Confucianism""米国エマソン学会機関誌Emerson Society Papers. Vol.11 No.2. 5 (2000)
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[Publications] スティーヴン・E・ウィッチァー 著 高梨良夫 訳: "エマソンの精神遍歴-自由と運命"南雲堂. 318 (2001)