2000 Fiscal Year Annual Research Report
ユングの錬金術心理学から見た『ファウスト』第二部の構造と意味
Project/Area Number |
11610535
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Research Institution | KYUSHU UNIVERSITY |
Principal Investigator |
池田 紘一 九州大学, 人文科学研究院, 教授 (10036973)
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Keywords | ゲーテ / C.G.ユング / ファウスト / 錬金術 / 深層心理学 |
Research Abstract |
1)ユングは『ファウスト』を錬金術のドラマと見なし、錬金術研究の集大成の書『結合の神秘』に関して、「そこに『ファウスト』を形づくっている-錬金術的側面に関するかぎりの-一切の歴史的背景が書かれている」と述べているが、実際には、直接『ファウスト』に触れているのは『結合の神秘』を含む全著作を通じてごく僅かである。ユングの念頭にあったのが『ファウスト』第二部であることは明らかであり、『結合の神秘』を中心とするユングの錬金術心理学と『ファウスト』第二部との内的関連を解明することに努めた。 2)ユングが『ファウスト』において重視している主要モチーフは、第一にメフイストーフェレスのヘルメス・メルクリウスとしての役割、第二に「母たちの国」、第三にホムンクルス、オイフォーリオンなどの童児元型、第四に「三」および「四」という数にまるわるモチーフである。その意味について考察した。 3)ユング錬金術心理学の立場から見るかぎり、「古代のワルプルギスの夜」こそ『ファウスト』第二部の中核的部分だと考えられる。「母たちの国」への下降と「古代のワルプルギスの夜」とヘーレナ登場との関連を錬金術心理学の立場から意味づけた。 4)『ファウスト』第二部は、素材ないしは内容として錬金術的諸要素を含んでいるのみならず、何よりもその全体を貫いている構造的展開が一種の錬金術的プロセス、ユング的に云えば「自己」に至る個性化過程であると見なされる。ただしそれは極めて近代的な刻印を帯びており、錬金術的自己探求の近代的挫折のドラマ、屈折した個性化過程のドラマでもでもある。
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Research Products
(1 results)