1999 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11610536
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
森 光昭 熊本大学, 法学部, 教授 (70019321)
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Keywords | 正書法 / ドイツ語 / 住民投票 / ドイツ連邦憲法裁判所 / 表記法 / 言語改革 |
Research Abstract |
今回の正書法改革では、ドイツ全体で激しい反対運動が巻き起こった。文相会議が社民党主導の言語改革を推進した。大統領や多くの政治家が反対の意思表明を行った。作家、ドイツ文学者、大半の市民が反対した。学校で習うことが学校以外では役に立たない。これでは何のための教育か。無駄ではないか、と。一時は裁判でも最終的に違憲判決がでるのではとの観測もあったが、1998年7月14日の連邦憲法裁判所の判決は、改革を合憲であるとし、翌年8月1日から予定通りドイツ全土で新正書法が正式に導入された。 しかし、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州では激しい抗議が住民投票に結実した。9月末住民投票が行われ、この州は独り独自の道を、すなわち他の15州とは異なり新正書法を撤回して、もとの正書法を再び採用することになった。 この1年後、言語の問題はまたまた政治の争いに巻き込まれた。この州のCDUが、「言語上わが州は陸の孤島であり、最大の被害者は学童である。従って新正書法を採用すべし」との立場に転じた。このため州議会は前年の住民投票の結果を無効とすることに成功し、呆気なくこの州の果敢な「実験」も1年で終わってしまった。この背景には、州議会選挙での有利な立場を築こうとしたCDUの思惑がある。 今回の正書法改革はあれほど激烈な反対が各界で起こったにもかかわらず、今日では、全くニュース価値がなくなっている。あの騒ぎは一体何であったのか、と問いたくなる。現在進行中の本研究の計画には、この問題の解明が新たな課題(極めて興味ある課題)として加わることになる。
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