1999 Fiscal Year Annual Research Report
自白の供述分析に関わる心理学的研究(仁保事件・八海事件を中心に)
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11620067
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Research Institution | Hanazono University |
Principal Investigator |
浜田 寿美男 花園大学, 社会福祉学部, 教授 (50113105)
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Keywords | 虚偽自白 / 自白の任意性 / 謝罪追及型取調べ / 強制-自己同化型自白 / 強制-迎合型自白 |
Research Abstract |
1954年10月26日未明、山口県吉敷郡大内村仁保牧川(現在は山口市)農業山根保の一家6人が惨殺される事件が起こった。いわゆる仁保事件である。捜査は難航し、事件から約一年後の55年10月19日、当時大阪に住んでいた岡部保(仁保出身の元警察官)が別件で逮捕、11月11日ごろから犯行を認めはじめるが、最初の自白調書がとられたのは11月22日であった。その後、自白内容が種々に転変して、最終的に翌年3月22日検察官への自白が録音テープに収められて、3月30日に起訴にいたる。裁判では第一審判決(山口地裁、62年)で死刑、第二審判決(広島高裁、68年)で控訴棄却、上告審判決(最高裁、70年)で破棄差戻しになって、差戻し後の第二次控訴審(広島高裁、72年)で無罪判決を得て確定した。本件は否認段階から自白にいたるまでの過程の一部が録音テープに残されている点で、きわめて稀なものであり、虚偽自白の心理分析を行なううえで貴重な事例である。 今回の分析の焦点は、被疑者が犯行を認めはじめた55年11月11日から最初の自白調書のとられた11月22日におかれた。この間の録音テープ19巻の分析の結果、取調官の取調べ姿勢は一貫して有罪前提の謝罪追及型のものであることが判明した。この種の取調べが連日長時間にわたって行なわれているところに、自白の任意性にかかわる重大な疑問を生じさせる。他方で本件被疑者の自白過程は、自分がやったかもしれないと思い込む種類の強制-自己同化型自白ではなく、自分がやっていないことははっきり自覚しておりながらの自白で、強制-迎合型であることが明らかであった。加えて、それが「自分が犯人になったつもりで考える」という倒錯した心理状況を作り出していることが明らかになった。そこでの自白は、言わば取調官と被疑者との合作である。
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Research Products
(2 results)