2000 Fiscal Year Annual Research Report
自白の供述分析に関わる心理学的研究(仁保事件・八海事件を中心に)
Project/Area Number |
11620067
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Research Institution | Hanazono University |
Principal Investigator |
浜田 寿美男 花園大学, 社会福祉学部, 教授 (50113105)
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Keywords | 虚偽自白 / 相互誘導 / 心証形成 / 証拠なき確信 |
Research Abstract |
1951年1月24日夜、山口県熊毛郡麻郷村八海の瓦製造業早川惣兵衛宅で、惣兵衛と妻が殺される事件が起こった。いわゆる八海事件である。警察は26日早朝に近所に住む吉岡晃を逮捕。吉岡の着衣や身体に血痕が付着しており、事情聴取に対して彼はすぐに自白した。金目当てに忍び込み、被害者に見咎められて惨殺したとの単独犯行自白であった。ところが現場検証の結果から複数犯の可能性が高いとにらんだ捜査官はさらに追及を重ね、吉岡から阿藤周平ら友人5人との共犯自白を取って5人を逮捕した。そのうちの1人はすぐにアリバイが成立したが、残り4人については強引な取り調べによっていずれも自白が聴取され、起訴に持ち込まれた。裁判では吉岡の単独犯行か、阿藤を主犯とする複数共犯かが争点となり、第1審、第2審とも複数共犯説をとり、阿藤を死刑、吉岡を無期懲役、他の3人も有罪とした。5人はいずれも上告したが、その後吉岡は上告を取り下げ、無期懲役で確定、残り4人の裁判が続いた。そうして第1次上告審で破棄差戻し、第2次控訴審で全員無罪、第2次上告審で再び破棄差戻し、第3次控訴審で全員有罪、最後に第3次上告審は有罪判決を破棄し、自判で全員無罪を言い渡した。 今回の分析の焦点の一つは、真犯人吉岡の最初の単独犯行自白とその後の複数犯行自白を比較し、巻き込まれた4人の被疑者たちの自白形成がこれとどのように連動しているかを検討することにあった。この点についてはアリバイ供述を中心にそれぞれの自白のあいだに相互誘導があることが確認された。またもう一つの焦点の一つは、第1審裁判官がこの事件の心理過程について明らかにした2冊の著書を分析し、そこから裁判官の心証形成とそこに潜む錯誤の過程を剔抉することであった。この点についても、裁判官が証拠によらずしてある確信に到達してしまう危険な心理過程の存在を確認することができた。
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Research Products
(2 results)