2000 Fiscal Year Annual Research Report
技術イノベーションに及ぼす人の資質と組織に関する研究
Project/Area Number |
11630120
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
宮原 諄二 一橋大学, イノベーション研究センター, 教授 (50303053)
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Keywords | イノベーション / C.S.パース / アブダクション |
Research Abstract |
技術開発の現場では個人のアイディアやひらめきをもとに多くの実験が行われ、新技術創出のための仮説が次第に形成されていく。ある人はその実験を開始する前にテーマに関する情報を徹底的に調べて実験の要因をすべて抽出し、その要因をマトリックス状に並べ綿密な実験計画を立てる。膨大な実験量をこなすが、時間はかかり目的の結果はなかなか得られない。しかし他のある人はそれまでの知識をもとに、まず最初に混沌とした状況を解決する特定の要因を思いつく。それに従って少数のスマートな実験をする。仮説と実験を繰り返し、短時間で良い研究成果をあげる。技術開発の現場ではしばしばこのような2つのタイプの技術者が観察される。しかし後者のスマートな実験をした人になぜそのような実験を思いついたのかを聞いても、彼は相手に理解されるように"論理的"に説明する事はなかなかできない。 本年度はこの論理としてC.S.パースのアブダクションについて考察した。アブダクションとは不可解な事実が観察された場合、これをその結論として説明しうるような仮説を構想し提起する推論であり、研究者や技術者のさらなる関心や試行錯誤を導く論理と言えよう。結論として言えば、従来からよく知られている演繹的推論および帰納的推論とアブダクションとは独立の存在ではない。これらは推論の要素である仮説・事例・結果の3つで互いに関連づけられる。3つの推論..はそれぞれ.スタートを.「仮説.」に置くのか、個々の.「事例」.に置くのが、「.結果」.に置くかにより、推論の形式が異なってくるにすぎない。個々の技術者がアブダクションと演繹的推論および帰納的推論の違い、またその関連性を理解することは、彼が創造的技術を生み出すための重要な「知」の一つであろう。
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